対談テーマ:DX時代『真の』人材育成のあり方(前編)
本日は、ビーグローブ株式会社代表取締役 宗像義恵様に「DX時代『真の』人材育成のあり方」をお伺いしました。インテルで長年勤めあげ、定年退職後にビーグローブ株式会社を設立。外資系で学んできたビジネスの作り方やマネジメントの仕方などを、企業向けに支援されている宗像さんの「独特な視点」から見た、DX時代に求められる人材育成について、率直に語っていただきました。
(株)KODO ISHIN 栄木:
ービーグローブ代表取締役 宗像さんをご紹介させていただきます。
インテルでずっと勤めあげまして副社長までなられました。今回、私自身が独立するにあたりまして、宗像さんにもいろいろとご支援をいただいておりまして、今回のセミナーにもご登壇のご協力いただけることになりました。
宗像様(以下、敬称略):
私自身は、「インテル入ってる?」のインテルという会社でビジネスをさせて頂き、現在はビーグローブという会社をやっています。主に社外取締役をIT系2社と製造業1社させて頂いておりまして、その合間で各ベンチャー企業等の事業戦略や経営などに関してのご相談に乗っているという状況です。
DX、そもそもの問題とは?
栄木:
ー今日のメインテーマは、「DX時代の『真の』人材育成のあり方」ということで、DXは言うまでもなく、デジタルトランスフォーメーション。
ぜひ宗像さんにお伺いしたいのが、デジタルトランスフォーメーション「DX」がバズワードになってますけれども、今この潮流に対して、そもそもの問題ってどんなところにあると思われますか?
宗像:
そもそも「DX」って何ですか?ということだと思います。
過去にも、IT業界はITソリューションを売らんがためのマーケティングをたくさんするわけです。色んなバズワードを飛ばしながら、そのときのソリューションを売っていこうというものがあったと思うんですけれども、そういう視点でいくと、大事なポイントは、「キャッチーなマーケティングの言葉に惑わされずにきちっと本質を理解して、そもそも、何をしなくちゃいけないのかを把握する」ことだと思っています。
DXって言う言葉が出てきている背景や、そこで何を実現しようとしているのか、もしくは、IT業界・ITのソリューションを使おうとしている多くの産業界の人たちが、どのような課題に直面しているかを、きちっと理解していくことが大切だと思います。
今はたまたまDXという言葉が定義されていますけれど、違う言葉でもよかったかもしれません。ITの技術を使って、新しい市場の変化に対しての事業の最適化をやろうとしたときに、それを「DX」という言葉で言ってるんじゃないかと思います。
皆さん色々な考えはあると思いますが、私自身はそのように感じました。
栄木:
ー色んな企業様と接していると、AIもそうですが、「DXに乗り遅れないようにしなくては」「DXはよくわからないけれども、とりあえず乗り遅れてはいけない」といった、それによって業務効率化を図っていくという文脈で導入されているのかなという印象を受けるのですが、その流れに関して宗像さんはどう思われますか?
宗像:
この課題に対して、論点が3つあると考えています。
今置かれているビジネス環境が大きく変わってきている。自分たちがやろうとしている事業背景が変わろうとしている。この論点で物事を捉えないと、「それってDXやっても意味がないじゃん。」って話になると思うので、そこがどういう課題感で自分たちのビジネス環境を認識するのかというのが1つ目。
2つ目は、DXと言われてる、ITの技術はものすごいスピード感で技術革新が起こっていて、技術革新の本質をきちっと理解しておかないといけない。
それこそベンダーから「これ入れて。」という口車に乗って、導入してみたけれどもダメだったとなりかねない。昔から動かないコンピューターのシステムって山ほど残骸のようにあって、IRPという言葉で、IRPを導入しようとしてやったけど、結局IRPで一番稼いだのは、IRPのソリューションを売ったベンダーだけで、「IRPできちっとトランスフォーメーションできた会社はない。」と言われるくらいです。そういうのは注意をした方がいい。なのでITの技術がどういう風に使われていくのが本質なのかを理解する必要があると思います。
あと、もう1つすごく大事なポイントは、そういう環境がどうなっているのかはわかるんだけど、先ほどの栄木さんの話にもありましたように、わかっちゃいるけどやめられない。成功体験変調型の社会と企業の風土。これが結構あるんじゃないかなと思います。
栄木:
ー成功体験変調の社会とは、例えばどういうことですか?
宗像:
例えば、よく言われているのが、体験と経験上、自分たちが成功すると、その成功体験によって、こういうことをしたら上手くいくと人は学習するわけじゃないですか?そうすると、前例主義というか、「前にこういうことをやったから、次も同じようにすればいい。」っていう成功体験になるじゃないですか?で、これが正しいのは事業のマーケットが拡大している、もしくは事業が常に成長し続けている時です。
前の通りにやって、その通り成長するだけだったらいいんですが、今、ビジネスの環境が変わっている状況で、基本的にビジネスが伸びてないじゃないですか?
栄木:
ーなかなか行き詰まりを見せている業界多いですね。
宗像:
これは、まずはビジネスの環境と市場の環境がどういう風に変わっているかという認識がないと、成功体験はそのまま続けても結局詰まってしまいますよ。
例えば、良いものを作ったら売れるという錯覚とかですね。
技術の向上をして性能を上げて機能向上させていけば、それは良いものになるはずだからというのは錯覚だと思うんです。もしくは、生産性の向上で安いものを作ってコストを下げて、価格競争力があれば物は売れるという、これも錯覚ですね。
今言ったのは全部過去の成功体験が錯覚であって、現実は安くても買わない人は買わないし、製造が良くても、なくていい人は買いません。最近は、車を買わない世代の人が増えてきているとか。そういうことが起こるわけです。ということは、過去の成功体験でビジネスをしていても、いろんな環境が変わっているから、必ずしも有効に働かない。それが成功体験変調型の社会の風土だけだと、なかなか新しいところに移っていけいないのかなと思っています。
栄木:
ー例えば、仮に銀行だとしたら、今までの融資で成長していくというのは、今の低金利・低成長と言う中で、今までの成功体験が通用しなく、踊り場にきているというところにあると思うのですが、その中で、銀行としてDXを導入した場合、その銀行がDXを導入する目的というところを、まずきちんと把握する必要があるという理解でしょうか?
宗像:
そもそも、金融機関が持っている使命とか、金融機関が持っている事業の目的だとか社会における使命みたいなのが、多分、もともと銀行が作られた時代と今とでは変わってきているんだと思うんですよね。
栄木:
ー例えば、どう変わってきているのですか?
宗像:
ビジネスの環境が変わることと、ITの技術の変化進歩が、絡み合って変わってくるのだと思います。
例えば、クラウドハンティングです。昔は、たくさんお金を持ってる人が投資家として存在していて、その人たちが資本を投入して、新しい事業を起こしていこうという動きだったじゃないですか。
クラウドファンディングすれば、すぐに資金を集めて事業を立ち上げられる環境ができましたよね。
これは先ほど言った、論点の2つ目。IT技術の進歩によるところがすごく大きい。
例で例えると、今から30年ほど前、私がまだ現役でプログラミングとかをやっていた頃は、いわゆる早いコンピューター(スーパーコンピューター)を使って何かしようとすると、1985年当時、プレンっていうスーパーコンピューターがあったんですけれども、買うと32億円くらいするんですよ。
それが今、当時32億円だったプレンコンピューターは、今のiPhoneと変わらないんです。今は7万円で買えちゃうんです。
そして、コンピューターの仕組みを使って、システムソリューションを作ろうとした場合、昔はインターネットのブロードバンドなんてないですから、専用のラインを借りてきて、専用の端末を作って配っていうのをやると、ほぼほぼ何百億円くらいのコストを掛けないと、システム一式ができなかったわけです。
でも、今、僕が知っているベンチャー企業は、25歳で資本金3000万円で立ち上げて、今100人規模で資金調達を30億・40億とするような会社に10年くらいでなってるんですね。この人たちがやってきことは、IT技術。それだけです。
私が前にいた会社のゴードン・ムーアさんが言っていた、ムーアの法則というのがあるんですけど。
宗像:
18ヶ月で圧倒的なパフォーマンスが上がって、圧倒的にコストが下がる。って言う技術進歩ですよね。
何十年か続く間に、何百億かけないと使えなかったコンピューターの資産が、今はほぼほぼタダ。
ほとんどの人がスマホ持っていて、ほとんどの人が何らかの形でネットワークへ繋がっている。この端末、そこに情報供給する側が一切投資をしなくていいわけですよ。勝手に使う人たちが自分のスマホを持って自分で通信契約をしているわけですから。あとはそこに向かってアプリケーションやソリューションを出してあげればいいわけですよね。
IT情報インフラにかかるコストがほぼほぼ見かけ上はタダになってきていると。
以前は、企業も自分で『オンプレ』と言って、自分で自分のコンピューターを買って、自分のところで資産として持ってコンピューター化した時代があった。
今は、ほとんどクラウドになってしまったので、自分でハードウェアを持たずに、月々使用料だけ支払って使うようになり、圧倒的にITのコストが変わりましたよね?
これによって、新しい技術革新を安いコストでどんどん手に入れられるようになりました。というのが、IT技術の一番大きな進化です。
それと、ビジネス環境・市場の環境が変わってきた。これが相まって、マーケットが変わってきた。
市場が大きく変わったポイントは、日本の場合ですと圧倒的に人口問題ですよ。2003年に日本は人口のピークを打ちました。1億3000万人くらい。そこから人口は減少になりました。
戦後、日本が高度経済発展みたいな形で右肩上がりで伸びていった時期、日本の人口は、戦争中・戦後くらいに6000万人くらいから、倍くらいに増えたわけですよ。
単純にマーケットは放っておいても倍になったわけです。
戦後、物はない時代ですから、それは作ったら売れますよね。そして、作った物はほとんどの人が手元に持ちました。冷蔵庫もTVも洗濯機もエアコンも、ほとんどの人はだいたい持ちました。なので物を供給するマーケットはさっちってきて、かつ、それを消費する人たちは減りました。マーケットはシュリンクしました。
次に、リーマンショックなどがあったおかげで、日本の所得、労働者の所得はほとんど増えていません。
これはリーマンショックの時が原因だと思うんですが、“ 雇用を守るために、賃金は上げないけど雇ってあげますよ” 的な経営者が出てきたわけです。日本の国全体のコンセンサスだったのかもしれませんが、そこから給料が全く上がらないですよね。会社は儲かったら全部内部留保で、社員とか従業員とかに還元しないから低賃金ですよね。
今、OECDの日本の平均企業は30カ国中22番目で、韓国の平均年収より37万円くらい安いとか。圧倒的に日本の給与が上がっていないので、物を買いたくてもお金がない。でも、そこそこの物は持っている。
日本はデフレの状態から出れずに、常に経済が停滞している状態にあります。なので、その中で技術革新がどんどん進んできて、『物を生産して市場で経済を成長させる動き』から、『ITを使って、生産性を上げる。効率を上げる。』という方向に物事の考え方がシフトしてきている。なかなか難しいですよね。
栄木:
ーということは、そもそもITで生産性を上げても売れないと。
宗像:
そもそも売れない。マーケットがないのだから。
栄木:
ーそれがDXの問題だったりすると。
宗像:
DXで何かをしたいと思った時に、そこに価値を作り込めるもしくは経済を活性化させるための仕組みを作れるのか。それは全体的な話なので、どこかの会社が1社だけ頑張ってもどうにもならない話だと思うんです。
なので、経済産業省含めて、国も一生懸命このDXという錦の御旗のもとに、次の経済の一手がないのかということを頑張っているんじゃないかなと思います。
栄木:
ー色々と推進されていますけれども、宗像さんからしたらちょっとどうなの?というところはありますよね。
宗像:
その環境の変化とか情報とかあるから、本を読んだりネットを見たりすれば色んな専門家の先生たちが色んなご意見を言ってるわけじゃないですか。そうすると頭ではわかるんですよ。
じゃあそれに向けて自分たちは変われるのかといった時に、先ほども言った『成功体験変調型の社会企業風土』がチャレンジすることに対して、一歩踏み出させない。それは、雇用(ジョブセキュリティー)の視点で、「仕事を失ったらどうするんだ。」という観点になった時、会社にずっとしがみつきたいという思いが強いから、どうしてもそうなりにくい。
そうすると、会社を渡りながらジョブのポジションを上げ、賃金も上げていくということがますます起きにくい環境になるのではないかと思います。
それは、DXそもそもの問題というより、環境の変化とか、技術の変化を理解してそれに伴って、新しい価値創造しようと思った時に、そこに向かって自分が行動できていないことがそもそもの問題じゃないかと思う。
DXの時代、企業に必要な「問い」
栄木:
ー次に、これからの時代、企業はどのような問いを持って取り組んでいくべきか? 宗像さんのお考えをお聞かせください。
宗像:
論点が3つくらいあると思っています。
まず1つは、環境が変わっているわけですから、今までのビジネスモデルに対して、お客様もその境の影響を受けているはずなんです。
デフレや賃金が安いのは1社の為で起こっているのではありません。日本全体の社会的現象として起こっているということは、1社だけの問題ではなく多くの会社に対して起こっている。
その視点で考えたときに、環境の変化によって自分たちの周りにどのようなインパクトがあるかを理解した上で、自分たちの事業モデルそのものをきちっと再定義できているのか。ここが大事なんじゃないかなと思う。
栄木:
ー事業モデルを再定義。キーワードですね。
宗像:
これは有名なピーター・ドラッガーさんもずっと昔からおっしゃっていた、『事業が目的』ですよね。
事業がなんなのか? お客様は誰なのか? どんな価値を提供をするのか? そのビジネスのとしての根本的な定義は、環境が変わったことに対して、今まで通りでいいのか? これをきちっと再定義しなければいけないということが、1点目の論点だと思います。
栄木:
ー今まで通りでいいのか?再定義する必要があるのか。
宗像:
結局DXは、再定義した事柄を現実化するための手段であって、DX自体の目的ではない。
先ほども言いました、ITベンダーさんは、DXのソリューションを売るのが仕事だから、DX・DXって言いますけれども、そもそもDXって何のためにするかっていうことを、きちっとそれぞれの企業の中で理解していないとダメなんじゃないかなっていうのがあります。
栄木:
ー確かに煽られている感じはしますよね。最近のDX・DXって。
宗像:
DXであろうがERPであろうがCRMであろうが、要は、その新しい価値創造、事業としての価値創造ができる。
そのために、最初の頃のITの使い方は、コーポレートITと言って、ファイナンスとか財務系の伝票処理系をコンピューターに乗せて処理をしました。なのでこの場合は、製造業だろうがサービス業だろうが、会社の財務諸表のPLとかBSに乗っかってくる項目は一緒だから、これをコンピューター処理するって言う意味ではあんまり大差がない。
一方で、価値創造になった場合は事業そのものですよね。
そうすると、これは事業体によっては、建設業だったり製造業だったりサービス業だったり、そういう業態に応じて、やっている中身が変わりますから、当然コンピューターの使い方も変わってくるはずです。
ということは、コンピューターのことを知ってるよりもビジネスを知っている人が主導権を握って動かないと、どうにもならない。
栄木:
ーこれは、新しい視点ですね。
宗像:
なので、ITベンダーにはソリューションは作れない。と僕は思います。
実際にその現場でやってる人たちが、一番ビジネスの課題感を理解しているわけですから、その人たちがどうITを使ったらいいかってことがきちっと認識できない限りは、ITベンダーがこんな良いソリューションがありますと言ったところで、本当に役に立つかはわからないですよね。
だから、そこは自分たちの事業をきちっと理解することが1つ目の論点。
栄木:
ーSIerの宗像さんから出るコメントというところがある意味、驚きなんですけれども、、、
宗像:
でも、SIer ・ ITベンダーは、お客様の事業が発展して初めて儲かりますから、お客様の事業がポシャったら、次の発注は来ないわけですよ。リピートも来ないし、更新のニーズもないじゃないですか。
大事なのは、お客様のビジネスがどのように定義されていて、それに対してどのようにコンピューターを使っていけば良いのかをわかっていることが大事。
企業にとって大事な2つ目の論点は、価値創造のコミュニケーションがきちっとできているかどうかですね。
続きは後編へ