人と組織の”葛藤”物語

本を通して誰かを思う誕生日

小さいころから内向的だった私は、さまざまな世界に自分を連れて行ってくれる本が大好きでした。
家にいながら、知らない国へ行ったり、誰かの人生を追体験したり、自分では思いもよらなかった考え方に出会ったりできる。
本は、静かな私にとって、外の世界とつながっている窓だったように思います。

書店に本が並んでいる光景を見るだけで、知らない世界への扉がいくつも並んでいるようで、今でも胸が少し高鳴ります。
表紙を眺め、ページをめくり、どんな物語がこの中にあるのだろうと想像する時間は、子どものころから変わらず、私にとって特別なものです。

そんな私が、自分の誕生日に毎年参加しているのがブックサンタです。
ブックサンタは、書店で経済的困難や病気、災害などで厳しい状況にある子どもたちに本を届けられるチャリティー活動です。
対象の書店で本を選び、レジで「ブックサンタで」と伝えるだけで参加できます。

この活動でいちばん好きなのは、「誰かのためを思いながら過ごす時間」そのものかもしれません。
私は普段の生活では、どうしても自分のことで頭がいっぱいになりがちです。
仕事のこと、予定のこと、やるべきこと。
気がつけば、一日中自分のことばかり考えて終わってしまうことも多いです。

誕生日に書店に立ち、どんな本を贈れば喜んでくれるだろうと私なりに思いを巡らせて本を選んでいると、不思議と心が穏やかになっていきます。
誰かのことを思うことで、自分の気持ちも整っていく。
その感覚が、私にはとても心地よく感じられます。
こうして、書店で誰かの顔を思い浮かべながら迷い、本に支えられてきた自分の子どものころを少し思い出しながら、大好きな本とじっくり向き合い選ぶ時間が、私にとっては何よりの自分への誕生日プレゼントになっています。

特別なことをしているつもりはありません。
ただ、自分が大切にしてきた本を通して、誰かの時間にそっと思いを向ける。
その豊かな時間を、誕生日という節目に持てることが嬉しいのです。

先日、また一つ年を重ね、忙しい合間になんとか時間をつくり、早足で書店を訪れました。
帰り道の足取りは、行きよりもゆったりしていて、空気も少しやわらいだように感じました。