人と組織の”葛藤”物語

【第15回】SF 収集心:これ後で使えるかも?

「それなら、ありますよ」と言える人は、AIには代われない

以前、ある研究者の方をコーチングしたときの話です。その方は、とにかく情報をよく持っている。論文、過去の研究事例、他分野の動向、社内外のデータ。話を聞いていると、頭の中にいくつもの引き出しがあるのがわかりました。

ただご本人は、少し気にしていました。
「集めてばかりで、活かしきれていない気がするんです」
「最近は、AIもあるし…そのうち自分はいらなくなるんじゃないかと」

でも、ある場面の話を聞いて、私は思ったんです。それ、まさに収集心が一番活きている瞬間だな、と。研究の打ち合わせで、周囲が「この領域、参考になる研究ないかな」と困っていたとき。その方が、少し考えてから、ぽつりと一言。

「それなら、ありますよ。前に読んだ論文で、近いアプローチがありました」

完璧な答えではありません。検索した結果を並べたわけでもありません。でも、その一言で場が動きました。

「それ、見てみたい」「今のテーマと、そこがつながりそうですね」

集めてきた情報が、その場の文脈に合った“ヒント”として差し出された瞬間でした。AIは、膨大な情報を集めるのが得意です。

でも、
・今この場で、何に困っているのか
・どの情報が「ちょうどいい一歩」になるのか
・どこまで出せば、相手が考え続けられるか

こうした判断は、その場にいて、人を見て、関係の中で考える人にしかできません。
後でその方が、こんなふうに話してくれました。

「みんなが困っているときに、『あるよ』って言えた瞬間が、ちょっと嬉しかったんです」

この感覚こそ、収集心の醍醐味だと思います。

収集心のポイント

・今すぐ使わなくても、気になる情報を集めておける
・場の文脈に合わせて、ヒントとして差し出せる
・人の思考を前に進める“きっかけ”をつくれる

収集心の盲点

・集めること自体が目的になりやすい
・情報が多く、出すタイミングに迷う
・「完璧じゃないと出せない」と感じてしまう

AIにとって代わられるかもしれない、そう言われる時代だからこそ。収集心は、情報を集める力ではなく、意味を持たせて渡す力だと思います。誰かが立ち止まったときに、「それなら、ありますよ」と言える。その一言は、これからの時代でも、確実に必要とされる力です。