人と組織の”葛藤”物語

一音にかける想いと、仕事に向き合う姿勢

学生時代、私は吹奏楽部に所属していました。
夏といえば、「吹奏楽コンクール」。
毎年この季節になると、朝から晩まで練習に明け暮れた日々を思い出します。

吹奏楽コンクールに馴染みがない方のために、少しだけご紹介すると、
このコンクールは吹奏楽界の一大イベントで、いわば“吹奏楽の甲子園”。
地区予選、都道府県大会、支部大会、そして全国大会へと、上位校だけが進んでいける仕組みです。
課題曲と自由曲、合わせて演奏時間は12分以内。
中学生の部であれば最大50名、高校生は55名以内という人数制限の中、いかに音をそろえ、ひとつの音楽として完成させるかが問われます。

先日、久しぶりに地元の地区予選を観に行く機会がありました。
開演前のホールは、少し緊張感がありながらも、どこか懐かしい空気に包まれていました。
舞台袖から出てくる学生たちの表情、コンクールという評価されるホールの張りつめた空気感、それらすべてが、当時の自分を思い出させてくれました。

コンクールに向けての練習は、半年以上も前から始まります。
そして、本番はたった一度きり。
ホールの響き、照明のまぶしさ、観客の静けさ、そして緊張……
普段の練習とまったく違う環境の中で、自分たちの音を出し切らなければなりません。
「練習は本番のように、本番は練習のように」
よく言われる言葉ですが、頭ではわかっていても、それが簡単にできるものではない。
ステージに立った瞬間、手が震えたり、周りの音が聞こえなくなったり。
そんなことも珍しくありません。

でも、だからこそ、そこにはドラマがあるのだと思います。

一音一音にすべてをかけて、仲間と息を合わせて、音楽を届ける。
そんな真剣な姿を見ていると、「これが青春なんだな」と、自然と胸が熱くなりました。

結果がどうであれ、コンクールに向けて努力した日々や、あの舞台に立ったという経験、
緊張のなかで音を出した記憶は、ずっと心に残るものです。

「何かに一生懸命になれる」ということ自体が、尊いことなのだと、あらためて感じました。

社会人になると、「これをやれば効果があるか?」「この業務は効率的かどうか?」
そんな視点で物事を捉える場面が増えていきます。
もちろん、日々の仕事では、売上や成果、効率、利益、そして株主への還元も大切です。

ただ、目の前の仕事に対して、あの頃のように「一音入魂」の気持ちで向き合えているかと問われると、
自分自身も、立ち止まって見直したくなるときがあります。
吹奏楽コンクールのように、「今この一音に集中する」「今この瞬間にすべてを込める」
そんな積み重ねこそが、やがて結果や評価につながっていくのかもしれません。

演奏を終え、安堵の表情を浮かべてステージを降りる生徒たちの姿を見ながら、
「仕事に向き合う姿勢も、こういう真剣さを持てたらいいな」
そんな気持ちになりました。

暑さの厳しいこの季節。
みなさんには、どんな夏の思い出がありますか?