人と組織の”葛藤”物語

「肩書は身分ではなく、役割」

 部門長に就任して間もないころ、私は自分の在り方に悩んでいました。
責任の重さに押しつぶされそうになりながら、毎日が手探り。そんなある日、思いがけない場所で、大切なことに気づくきっかけをもらいました。

友人の何気ないひと言

それは、休日のランチでのこと。
趣味仲間の友人と、近況を話しながら食事を楽しんでいました。
私の会社での立場を知らないその友人が、職場の上司の話をし始めました。

「とにかく偉そう。人の話をちゃんと聞かないし、馬鹿にした態度をとるのよ…」
愚痴は次々と続きます。
そして、ふと彼女がつぶやいた一言に、私はハッとしました。

気づかされた“勘違い”

その瞬間、私の胸に何かがチクリと刺さりました。

部長としての自分が、肩書に気負いすぎていたことに気づいたのです。
「部長になったからには、何でもできなければならない」「偉い存在でいなければいけない」―― そんな思い込みが心のどこかにあったのです。

その友人の言葉で、視界が開けたような感覚がありました。
役職は、あくまで「役割」を表す名前であって、身分を示すものではない。
「課長」という役割を担う人、「リーダー」という役割を担う人、「取締役」という役割を担う人…。
それぞれ異なる役割を担っているだけで、上下の身分関係が生まれるわけではないのです。

肩書に振り回されない

確かに、肩書を「身分」と捉えてしまう人はいます。
そうなると、無意識のうちに態度が変わったり、権威的になったりしてしまうことがあるかもしれません。
逆に、肩書を意識しすぎるあまり、気後れして萎縮してしまう人もいます。

私自身も、昇進したばかりで、「失敗してはいけない」「弱みを見せてはいけない」と、必要以上に身構えていました。
でも、「役割」として肩書を受け止めると、不思議なほど心が軽くなりました。
与えられた役割を全うするために必要なことに集中できるようになったのです。

視点が変わると、行動も変わる

肩書を「役割」として捉えると、新しいポジションへの取り組み方は大きく変わります。
 「自分はこの役割を果たすためにここにいる」という意識があれば、余計なプライドや不安に振り回されなくなります。
そして、役割を全うするために何が必要か――スキルを磨く、情報を集める、人に助けを求める――そんな行動が自然と増えていきます。

この気づきは、私にとって仕事観を変える大きな転機になりました。
肩書きに合わせて自分を“飾る”のではなく、逆に”気後れする“のでもなく、肩書きの本質=役割に集中する。
それが、より良い成果と周囲の信頼を生むのだと、今は実感しています。