人と組織の”葛藤”物語

数字の向こうにある声 ― アンケートデータが教えてくれること

私の仕事のひとつに、IK!IK!が提供する研修に集まる受講者のみなさんのアンケート回答データを整理・分析をすることがあります。数十名、あるいは数百名、数千名から寄せられる回答を、項目ごとに集計し、コメントを読み取りながら、IK!IK!の仲間やクライアント企業にとって役立つ形にまとめていきます。

アンケートデータと聞くと、数字やグラフといった「無機質なもの」を想像される方が多いかもしれません。実際、私が扱うのはスコアや割合、あるいは「良かった」「どちらでもない」といった短い言葉が多いです。けれども、その背後には確かに人の思いが込められていると感じる瞬間があります。

たとえば、設問に対して一つ一つ丁寧に回答し、長文でコメントを書いてくださる方がいます。その一方で、ほとんどの項目が未記入だったり、「特になし」とだけ書かれている回答もあります。いずれもその人が置かれている状況や、そのときの気持ちのありようが反映されているように感じます。後者の方は、数分の時間を割いて回答するのも大変なくらい業務が多忙なのかもしれませんし、研修が自分にとってあまり響かなかったのかもしれません。あるいは、アンケート設問自体が適切でなかった可能性もあるでしょう。そう考えると、一見「空白」に見える回答も、よりよい職場環境や研修をつくるヒントになります。

一方で、アンケートだからこそ普段は口にしにくい本音が率直に表れることもあります。対面では遠慮してしまうような意見や、普段の業務の中ではなかなか出てこない気づきが、回答に正直に書き込まれているのを見ると、人の声がまっすぐに届いてくる感覚があります。受講者の仕事への思いや職場・研修への期待、研修の中で得た学びや変化などを、自分なりに表現してくれる回答に出会うと、私はこの声を必ず届けようと背筋が伸びる思いがします。

ただ、前向きなコメントの中にも、ときに忖度や気遣いが透けて見えることがあります。「本音をそのまま書くと角が立つのではないか」というような迷いや遠慮が、回答データからにじむことがあるのです。そうした回答は、職場の中に正直に答えにくい空気や構造をつくってしまってはいないか、アンケートの設計や募集のあり方が妥当なのか、と立ち止まって考えるきっかけをくれます。

私はたいてい、一人黙々とPCに向き合ってデータ分析作業をしています。受講者のみなさんと直接顔を合わせることは基本的にありません。けれどもアンケートを通して、確かに「人」がそこにいると感じる瞬間があります。忙しい日常の中で時間を割いてくれていること、研修にさまざまな期待や課題を持って臨んでいること、そして色々な受け止め方をしてくださっていること。数字や短い言葉の背後に、そうした姿が浮かび上がるように思えるのです。回答データを眺めていると、ふと受講者のみなさまの顔が見えるような気がすることさえあります。

あまり表立って語られることはないけれど、確かに存在する「声なき声」。アンケートデータに表れるそれを拾い上げ、研修や組織づくりの改善に生かすことが、私にできる役割なのだと思います。単なる集計や報告にとどまらず、その奥に潜む思いを見つめ、IK!IK!で講師を務める仲間やクライアント企業に届けること。その積み重ねが、受講者にとってより実りある職場や学びの時間を形づくる一助になると信じています。

これからも、数字やコメントの奥にある声に耳を澄ませながら、データを通して「人」を見つめていきたいと思います。