
「え、1on1って私が主役なの?だったらそんな時間いりません。」
――これは、ある企業で実施した部下(メンバー)向け1on1研修の冒頭で、
言葉には出ないものの、画面越しからビシビシ伝わってきた“空気”です。
いまや多くの企業が導入している「1on1ミーティング」。
その目的は、対話による相互理解、自己内省(=自分を客観視する力)の促進、
そして自律的キャリア形成の支援など多岐にわたります。
つまり、「メンバー(部下)が主役で、メンバー(部下)のための時間」。
ですが現場では、
上司による業務進捗の確認、指示の伝達、あるいはアドバイスや説教タイム――
いつの間にか、「上司のための時間」になっているケースも少なくありません。
当然、メンバー側のホンネはこうです。
- 「上司と話すことなんて特にない」
- 「関わりたくないし、早く帰りたい」
- 「評価に関係ないなら別にやらなくていい」
特に今回対象となったのは、長年会社に貢献してきた「事務職」の皆さん。
この方々の“リアルな空気感”は、まさにこうでした。
「何を今さら…」
義務でも評価対象でもない。だからこそ“無敵”
上司には、「メンバー(部下)育成」「実施率」「評価」といった“やる理由”があります。
しかし、メンバー(部下)にはそれがありません。
やらなくても困らない。
やったからといって評価されるわけでもない。
つまり、失うものが何もない=無敵なのです。
そんな皆さんに対して企業からのご依頼は、こうでした。
「事務職のメンバーにも火を灯してほしいんです」
「1on1の意義を理解し、前向きになるきっかけを作ってほしい」
しかも…たった1回。しかもオンライン(半日)で。
正直、ハードルは高い。
でも、だからこそ挑戦する価値があります。
火が灯った瞬間
「なんで私たちが、こんな研修に呼ばれなくちゃいけないの?」
研修の冒頭は、そんなオーラが全開でした。
チャットで「今日の研修で持ち帰りたいことは?」と尋ねても、
「特にない」「1on1をやる意味を知りたい」など、忖度抜きのコメントがずらっと並びました。(笑)
正直、これまでの管理職や経営層向けの研修よりも手ごわさを感じました。
ですが、そんな受講者の気持ちを理解しながらも、「仕事で働く以上、これだけは大切なこと」をとことん受講者視点に立って話すと…空気が少しずつ緩んでいくのを実感しました。
そこから本来の目的や、対話の可能性について伝えていくと――
最後には、受講者のコメントにはこんな声が並びはじめました。
- 「普段から話していたので、正直いらないと思っていた。でも“関係の質を高める時間”だと知って再開したくなった」
- 「上司に業務相談ばかりしていたけど、“自分自身の話をしてもいい”と知って驚いた」
- 「最初は義務かと思ったけど、小さな一歩(会話)で自己肯定感が上がるかもしれないと思えた」
これは、たった4時間で起きた変化です。
しかも上司向けの研修よりも、「ホンネ感」が伝わってきました(笑)
冷たく見えていた表情が、少しだけ柔らかくなる瞬間がありました。
私たちが渡せるのは、“火種”だけ
私たちにできるのは、「火をつける」ことではありません。
メンバー(部下)自身が、自分のタイミングで燃やしていけるような、
“火種”をそっと渡すこと。
その火種が、ふとした瞬間に思い出され、
やがて温かな対話につながっていくことを願って。
最後に問いを。
あなたの職場で行われている1on1は――
誰のための時間になっていますか?
そして、そこに火種はありますか?
