栄木の”ひとり言”

【第251号】「メンバーのホンネが引き出せない」 ~マネージャーのあるある悩みに答える~

「部下(メンバー)のホンネが引き出せない」

これは、管理職向けの研修をしていると必ず耳にする言葉です。
多くのマネージャーが、うなずきながらこの悩みを共有します。

「伝えても響かない」「そもそも伝わっているのかわからない」。
そんな声の裏には、共通のもどかしさがあります。
—— “伝えているのに動かない”。

事業で成果を出すには、メンバーの力が欠かせません。
だからこそ、「もっと主体的に動いてほしい」と願う。
そのためにも、やる気スイッチを押したい。
でも動いてくれないと、「ホンネを知りたい」と思う。

そこで1on1を実施するのですが、ホンネはなかなか出てきません。
そんな堂々巡りを、マネージャーは日々経験しています。


「相手のホンネ」の前に、「自分のホンネ」は見えていますか?

ホンネの引き出し方のテクニックを教えてほしい、とよく言われます。
しかし筆者は、まずこう尋ねることにしています。

「みなさまご自身は、”自分のホンネ”をどれくらいコトバにできますか?」

例えば——

・どんな相手にストレスを感じますか?
・その相手の、どんな言動にストレスを感じますか?
・そこからどんな価値観が見えますか?
・その価値観は、いつどんな経験から培われてきましたか?

2人1組で語り合ってもらうと、多くの方がこう言います。

「意外と出てこない」「うまく言語化できない」と。

つまり私たちは、“自分との対話”が意外と足りていません。


ホンネが見えないと、背景が読めない

例えば、メンバーが「忙しいので無理です」と言ってきたとします。

多くの上司は、反射的にこう返します。

「いや、それくらいはできるでしょ」

でも本当は、“できない”のではなく、
“やり方が見えていない”だけかもしれません。

自分のホンネを知らないと、
相手の言葉の背景が読めません。

何を守ろうとしているのか
何に不安を感じているのか
どんな思いが隠れているのか

それが見えないまま、表面の言葉に反応してしまうのです。


ホンネは「引き出す」のではなく、「こぼれ出る」

ホンネとは、テクニックでこじ開けるものではありません。

安心できる空気の中で、
勝手に “こぼれ出てしまう” ものです。

そのために必要なのは、技法ではなく姿勢

・評価ではなく、“理解のまなざし”を向ける
・沈黙を恐れず、余白を大切にする
・相手の世界を「まず受け止める」

この地道な積み重ねが、ホンネを呼び起こす土壌になります。


自分のホンネを知ることは、「未知の自分」に出会うこと

筆者自身、自分のホンネをすべて分かっているわけではありません。
むしろ、

「まだ知らない自分がいる」

と思えることは、とても健全です。

私たちは、自分の心がどんなときに動くのか、
何に喜び、何に違和感を覚えるのか。
その内側の源泉を探し続ける旅の途中にいます。

その旅の中で出会うメンバーとの対話こそ、
人間らしい時間なのではないでしょうか。

人のホンネも、自分のホンネも、すぐには分かりません。
ですが、そのわからなさを一緒に確かめ合うことが、
人のマネジメントの醍醐味であり、人生をより豊かにする営みなのかもしれません。