先日、ある方と話す機会がありました。
長年、JリーグでGMを務め、結果も出してきた方です。
勝負の世界で、修羅場もたくさん見てきた。
うまくいった時期だけでなく、不遇も味わってきた人。
その方が発した一言がとても印象的でした。
「騙す方より、騙される方がいい」
「親父がずっと言ってたんですけどね。これは間違いないなって、今になって思います」
一瞬、きれいごとにも聞こえました。
でも、その人の表情や話し方には、不思議と軽さがありません。
ああ、この人は、本当にそうやって生きてきたんだろうな、と。
出し抜こうとしない。
うまく立ち回ろうとしない。
自分にも他人にも正直。
だからこそ、言葉に重みがありました。
最近、ニュースでは詐欺事件をよく目にします。
誰かを騙して、大きなお金を得る。
詐欺とまではいかなくても、
ビジネスの世界は「グレーゾーン」で溢れています。
ちょっと盛る。
都合の悪いことは言わない。
ごまかす。
理屈だけ見れば、その方が効率的なのかもしれない。
短期的には、得をすることもあるでしょう。
でも、どこかで思うんです。
それって、本当に「得」なんだろうか、と。
正直に言えば、昔の自分も、
まったくの白だったかと言われると、自信がありません。
少し大きく言ったこともあるし、
都合の悪い説明を後回しにしたこともある。
「これくらい、いいか」と。
でも、そういう小さなズレって、
不思議と心のどこかに残ります。
あと味が悪い。
そして、その癖は、いざという場面で必ず出る。
土壇場で、人は“普段の自分”に戻るから。
だから結局、自滅する。
そんな気がしています。
一方で、普段から誠実に、正直に、親身に向き合っている人はどうか。
派手さはないけれど、
確実に「地力」がついていく。
この人なら大丈夫。
この人に任せたい。
そうやって、少しずつ信頼が積み上がる。
信頼は、実はスキルよりも強い資産だと思います。
どこに行っても声がかかる。
仕事が途切れない。
気づけば、くいっぱぐれない。
長期的に見れば、これがいちばん合理的な勝ち方なのかもしれません。
もちろん、無防備に何でも信じればいい、という話ではありません。
疑うことも、ときには必要です。
ただ、
「人を騙してでも得を取る」
この線だけは越えない。
そう決めている人は、どこか強い。
自分に対しても、他人に対しても、嘘がないからだと思います。
騙されることもあるかもしれない。
損をすることもあるかもしれない。
それでも、
自分は絶対に騙さない。
そう決めて生きるほうが、
自分自身に納得感があります。
遠回りに見えて、
たぶん、いちばん確実な道。
あの日の一言が、今も頭に残っています。
「騙す方より、騙される方がいい」
あれは勝ち方の話ではなく、
生き方の話だったのかもしれません。