栄木の”ひとり言”

【第267号】気づく前に、降りてしまう人

数年前、筆者が関わっていた大学ラグビー部の監督と話していたときのことです。

1年生のスクラムハーフ(←ポジション名)が2人いました。
どちらも高校日本代表。
実力に大きな差はありません。

それでも監督は、入学して間もない頃、こう言いました。

「片方は伸びる。もう片方は厳しいかもしれない」

まだ結果も出ていない時期です。
それでも、もう見えていると言うのです。

理由はシンプルでした。

「一人は素直。もう一人は、変なプライドがある」

当時の筆者には、正直よく分かりませんでした。
そんなことで未来が分かるのだろうか、と。

でも数年後、
一人はトップレベルでプレーし、
もう一人は競技の世界から姿を消しました。

結果として、監督の言葉は現実になりました。

ただ、これは単純に
「素直な人が勝つ」
という話ではないのだと思います。

伸びた選手は、決して従順だったわけではありません。

自分の考えもあるし、意見も言う。
ただ、必要だと思えば、すっと自分を変えられる。

いったん自分のプライドを横に置いて、
「では、どうすればもっと成長できるか」と考えられる。

折れないけれど、曲がれる。

それが本当の素直さなのだと思います。

一方で、もう一人の選手の話を聞いたとき、
筆者は少し胸が痛みました。

昔の自分と重なったからです。

不器用で、
無駄にプライドが高くて、
組織にうまくなじめない。

ただ、ひとつだけあったのは「想い」でした。

途中で投げ出したくない。
自分にだけは負けたくない。
可能性は青天井。

その気持ちだけは、手放しませんでした。

だからあるとき、ふっと気づきました。

「あ、自分に問題があったな」と。

その瞬間、あれだけ守っていたちっぽけなプライドが外れました。

人は、あの瞬間から変わるのだと思います。

スキルでも、才能でもありません。
気づきです。

そしてこれは、スポーツの世界だけの話ではありません。

仕事の現場でも、同じことが起きています。

うまくいかないとき、
人は環境を疑います。

会社が悪いのではないか。
上司が悪いのではないか。
この場所では成長できないのではないか。

もちろん、環境の問題もあります。

ただ、自分に目を向ける前に、
その場を離れてしまう人も少なくありません。

転職という選択肢が身近になった今、
それは以前よりも起きやすくなっています。

気づかないまま環境を変えても、
同じ壁に、また出会います。

人が成長の途中で消えていく理由は、
能力不足ではないのかもしれません。

気づく前に、降りてしまう。

それだけの違いなのだと思います。

あのとき競技を離れた選手も、
どこかのタイミングで気づいていたら、
違う未来があったのかもしれません。

それは誰にも分かりません。

ただ、ひとつだけ確かなことがあります。

人は、気づいた瞬間から変わるということです。

今、研修やコーチングの現場に立ちながら思います。

自分の役割は、教えることではない。

その人が、自分自身と向き合う瞬間をつくること。
気づく瞬間をつくること。

人は、自分で気づいたときにしか変わりません。
でも、気づきさえすれば、変わります。

筆者はそれを、何度も見てきました。

そして、自分自身もそうでした。

だから筆者は、今日も問い続けています。

一人でも多くの人が、自分自身に気づくにはどうしたらいいのかを。