筆者は仕事柄、企業の依頼を受けてキャリアに関する研修を行うことがあります。
ただ、いわゆる一般的なキャリア研修とは、少し違うスタンスを大事にしています。
一般的なキャリア研修というと、たとえば、
・5年後、10年後の理想像を描く
・自分の強みやありたい姿を言語化する
・将来の目標を立てる
・そのための行動計画を考える
といった内容が多いように思います。
もちろん、これ自体は大切です。
ただ、昔、筆者が会社員としてそうした研修を受けたとき、強い違和感がありました。
そのときは正直、
「それどころじゃない」
という状態だったからです。
目の前の仕事をこなすだけで精一杯。
予算をどう達成するか、クレーム対応をどう乗り切るか、人間関係の悩みもある。
そんなことに意識が向いていて、将来のことを落ち着いて考える余裕などありませんでした。
にもかかわらず、研修ではこう問われます。
「あなたは、どんなキャリアを描きたいですか?」
「5年後、どうなっていたいですか?」
「あなたらしい働き方とは何ですか?」
頭では大事な問いだと分かります。
でも心のどこかで、こう思っていました。
いや、それより先に目の前の問題をどうにかしたいんだけど。
ろくにワークにも取り組まず、内職ばかりしていた筆者に、
当時の講師もきっと手を焼いたと思います。
一方でこちらは、「忙しいのに時間を取られた…時間を返せ!」と感じていました(笑)。
(「研修=時間を取られるもの」という思考が強化されていったのを覚えています。)
ただ、このモヤモヤは、筆者だけのものではないと思います。
多くの人は、キャリアを考えられないのではなく、
キャリアを考えられる状態にない。
目の前を回すことで精一杯で、自分が何を大切にしたいのか、何に納得し、何に違和感を覚えているのかを整理する余裕がないように思います。
こうした原体験があるからこそ、筆者は講師としてキャリアを伝えるとき、
いきなり大きな夢や目標考えてもらうことはしません。
まずは、
・今、何にモヤモヤしているのか
・どんなときに少しやりがいを感じるのか
・今日どんな一日を終えられたら納得できるのか
・自分は働く上で何を大切にしているのか
そんなところから、ゆっくり言葉にしていきます。
キャリアとは、立派な夢を語れることではなく、
自分の違和感や納得感を手がかりに、少しずつ「自分なりのものさし」に気づいていくことだと思うからです。
実際に、「3年後の目標を考えましょう」「ビジョンを描きましょう」と迫るよりも、
このスタンスで進めたほうが、受講者の共感は明らかに高くなります。
「それなら分かる」
「それなら考えられそう」
「目標を持てなくて困っているのは、自分だけじゃなかったんだ」
そんな声が返ってくることも少なくありません。
キャリアは、最初から理想の形で見えているものではありません。
日々の仕事の中で、何に心が動き、何に違和感を覚え、何を大切にしたいのか。
その積み重ねの先に、あとから少しずつ輪郭を帯びてくるものなのだと思います。
だからこそ、キャリアを考える第一歩は、
大きな夢や目標を持つことではなく、
“それどころじゃない自分”を責めないこと。
そしてもし少し余裕があるなら、
今日一日を振り返って、
「少しでも納得できた瞬間」と「引っかかった違和感」を、ひとつずつ言葉にしてみてはいかがでしょう。
そこに、これからのキャリアのヒントは、含まれているはずです。