
企業における1on1ミーティングが広がるに伴い、コミュニケーションにおける「コーチングスキル」が注目を集めています。
コーチングの目的は、本人(クライアント)の目標達成・成果(アウトプット)です。
一方で、「成果を出すためには、周囲(コーチ)に助けを求めず、自助努力をすることが大事だ。」
という考えも理解できます。
ですが、その努力の仕方がそもそも間違っていたり、もっと良いアプローチがあったとしたら、軌道修正ができて、もっと早く成果を出せるでしょう。
「功を急ぐのではなく、紆余曲折を経て、たくさんの失敗をしながら学んでいくことも人生には必要だ。」
筆者もこの考えには同感です。
一方で、プロのアスリートなど、選手寿命が限られている人となると話は別です。
時間をかけて自ら何かを掴み取る必要がある一方で、一刻も早い成果を求められるのも事実です。
そこで、多くのアスリートたちは、「より早く、より高い成果」を求めて、最新のトレーニングを取り入れたり、専門家の知見を取り入れたりしながら試行錯誤をしています。
「自分にとっての正解(確証)」を手に入れたいからです。
しかし、功を急ぐ余りに、なかなか成果が出ないときは焦りが募る一方です。
また、正解を得たつもりでも、また壁にぶつかった時に「こんなはずでは…」と思ってしまいます。
そして、その焦りがパフォーマンスの低下を招き、自滅につながってしまうこともあります。
そう考えると、成果を出す上で最も大事なことは「自己解決力」だと筆者は考えます。
わかりやすく言えば、どれだけ早く「気づき」を得られるか?という力です。
なぜ、人は悩むか?
それはなかなか解決に至らないからです。
ですが、解決に至る時間が短ければ、当然パフォーマンスの改善にもつながります。
成果を出す上で、また自らが成長する上で「本当に大事なこと」に気づいたアスリートは、パフォーマンスが見違えるほど改善されます。
これは、アスリートに限ったことではなく、人生全般について言えることです。
コーチングは、対話を通じて本人に「本当に大事なこと」に気づいてもらうアプローチです。
対話を通じて、「こんがらがった糸がすっきるほどける」ような感覚です。
この定期的な対話のアプローチは、本人の自己解決力だけでなく、自分と客観的に向き合う力(メタ認知力)も養います。
いずれも成果を出す上でベース(土台)となる力です。
コーチングは、傾聴、共感、質問、フィードバックなどスキルを使って対話をしていきます。
専門家のように「こうしたほうがいいよ。」とアドバイスは基本的にはしません。
なぜなら、その時点で「他者による解決策の提示」となり、自己解決には至らないからです。
ますます、本人は「正解」を持っている相手に解決策を求め、依存することでしょう。
しかし、これでは「自己解決力」は高まりません。
では、これらのスキルがあれば、本人の気づきを促すことができるのでしょうか?
答えは「NO」です。
コーチングが機能するためには、
クライアント(本人)から見たときに、そのコーチが人として信頼できるかという、信頼感。
コーチが自分の価値観を押し付けようとしない、ニュートラルな姿勢(相手の考えを尊重する姿勢)。
その上で、相手の思考の盲点(成果の阻害要因)を的確に捉える力、問題発見力。
これらが前提として重要になってきます。
その前提があって初めて、質問やフィードバックというコーチングスキルが生きてきます。
残念ながら、コーチングに対して良からぬイメージを持っている人も結構います。
(実は筆者もその一人でした…。)
「質問攻めされているうちに、なんだか嫌な気持ちになってきた」
「コーチ自身は的を射たフィードバックをしたつもりのようだけど、自分にとっては全くもって的外れで不快に思った」
「話をしていて、会話が堂々巡りしてなんだかまどろっこしい気持ちになった」 など…。
筆者自身、現在プロのアスリートにコーチングをする傍らで、企業向けのコーチング研修も実施しておりますが、スキル以前の「あり方(姿勢)」が最も重要であることをレクチャーをしています。
コーチングに対する誤解や偏見がこれ以上生まれないためにも…です。
コーチングは、「たかだか対話」のアプローチですが、「されど対話」のアプローチでもあるのです。
コーチングコミュニケーションを機能させるために重要なこと、
それはコーチ自身の「メタ認知力」「自己解決力」を高めることと筆者は思っています。
ですが、自分にはそういう力があると思った時点で、これまた落とし穴が待っています。
だからこそ、おごり高ぶることなく、絶えず自分と向き合い、周囲からフィードバックをもらいながら自己研鑽をしていく姿勢が大事になってくると思います。
クライアントとともに、コーチも成長させてもらっている。
企業でいえば、部下との対話を通じて、上司も成長させてもらっている。
これが、コーチングアプローチの醍醐味と思います。