
プロ野球は、今年は阪神タイガースの大躍進と岡田監督の采配が注目を集めています。
「アレ」も流行語大賞にノミネートされそうです。
その一方で、筆者が注目している人がいます。
それは、プロ野球オリックスバファローズの中嶋聡監督です。
前任監督の途中解任を受け、中嶋監督がバトンを受け継いだのが2020年8月のこと。
その年は最下位に沈みましたが、翌年の2021年は最下位から優勝と、V字回復を果たしています。
その後、2022年・2023年も優勝しました。
どのチームも優勝を目指し、大金をはたいて補強を進めている中での3年連続リーグ優勝は「凄い」のひと言です。
それまでのオリックスは、1996年のイチロー選手を擁しての日本一以来、25年間パ・リーグ優勝から遠ざかっていました。
しかも2000年代に入ってからは3位以内の「Aクラス」が2回だけ。
それ以外の19回は、ずっと4位以下の「Bクラス」でしたから、3年連続のリーグ優勝がどれだけ凄いかが分かります。
中嶋監督の姿勢を垣間見るひと言がありましたので、紹介します。
2020年監督代行就任時のインタビューのことです。
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「(途中交代での監督就任は)不安しかないが、自分の知っている戦力全てを把握して組み合わせたい」
「本来の力を出し切っていない選手が多い」と指摘し、意思疎通を図って復調に導く意向を示した。
2020年8月21日 日本経済新聞HPより抜粋
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「観察力」と「コミュニケーション(意思疎通)」
3年後の今、このコメントを見ると、「有言実行」という印象を受けます。
生え抜きの選手が活躍していることがそれを物語っています。
また、中嶋監督と選手の意思疎通を物語るエピソードがあります。
元オリックス投手の星野伸之さんのコメントです。
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「中嶋監督は、今シーズン(2021)、サヨナラ勝ちした試合では、ヒーローになった選手としっかりと抱き合って喜びを分かち合い、チャンスで打てなかった選手に対しては、頭をポンポンと軽くたたいて励ますなど、選手たちと積極的にコミュニケーションをとってきました。」
「ベンチにいる姿を見ても選手との距離をあんまり空けたくない感じが見て取れます。キャッチャーなので現役時代はガッツポーズなんて試合が終わるまでなかなかできなかったですけど、いまは監督として選手を乗せるように自分も乗るというか、これくらい派手にやってもいいんだという姿を見せていると思いますね。」
2021年11月20日NHK HPより抜粋
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星野さんは、こうした行動がチームに前向きな雰囲気をつくり、25年ぶりの優勝の原動力になったと言います。
もちろん、前向きな雰囲気だけで優勝できるものではありません。
フロントや育成部門との連携・ベースとなる戦力・シーズンを戦い抜く戦略・試合ごと戦術・瞬間での采配など、「戦略・戦術的な要素」は当然欠かせません。
ですが、その「タクトさばき」に、「選手の気持ちがついてきているかどうか」が何よりも大切だと筆者は考えます。
実際に、ある監督の采配や起用に対して、選手がそれを理解できず監督やチームに不信感が募ってしまう…。
補強ばかりに目が行って、「結局、球団の事情ばかり優先して、自分たちは駒でしかないんだ」と選手たちが感じてしまえば、気持ちがついてきません。
「プロなんだから厳しくて当たり前」
と言われそうですが、プロであると同時に「一人の人間」です。
一人ひとりの監督に対する納得感や、チームに対する貢献心といった「気持ちの部分」は、チームが勝つ上で必要不可欠な部分ととらえます。
中嶋監督は、その点が卓越しているのだと推察します。
目に見える技術だけではなく、気持ちや考え方の部分に対する選手一人ひとりへの観察。
適度な距離感や適切なタイミングでのコミュニケーション。
だから、采配も「外しにくい」のだと思います。
マネジメントとは、究極、人間の心に処する営みである。
そう述べたのは、多摩大学大学院名誉教授の田坂広志氏です。
そこに気づき、人間理解に努める指導者が、これからの時代ますます成果を上げていくと筆者は感じます。
反対に、勝つことだけ考えて、技術やデータばかり重視し、人の心を置き去りにする指導者やチームほど、時代に置き去りにされていくとも感じます。