
今や日本企業の2社に1社以上は導入しているという「1on1ミーティング」の制度。
※1on1ミーティングとは、上司―メンバーが、1対1で定期的(月1回など)に行う対話のことです。
筆者の主な仕事は、この1on1の導入支援と、研修を通じて上司・メンバーに対して1on1への動機づけをすることにあります。
実際に関わってみると、1on1を実施することに否定的な印象を持っている方が大半です。
上司からは、
「人手不足でただでさえ忙しいのに、やっている時間がない。」
「メンバーから『特にありません』と言われる」
「やったところで、会話のネタに尽きてマンネリ化してくる」
メンバーからは、
「今さら上司と話すことはない」
「上司とは普段からコミュニケーションは取れている」
と言ったものです。
そのどれもが、本音だと思います。
そんな中、一介の講師が、
「VUCA時代にあり、人的資本が重要な局面において1on1は必要です」
「これからは人財育成が重要な時代になってきます」
と上段から言ったり、「あるべき論」に終始してもまず響きません。
むしろ反発を招きます。
人は、説得では動きません。
人は、納得してこそ動きます。
では、どうしたら人は納得してくれるのでしょうか?
これまでの経験から、3つのキーワードに集約されるように思います。
1.「尊重・共感・受容」
2.「自分にとってのメリット」
3.「身近な出来事に置き換える」
以下、見ていきましょう。
1.「尊重・共感・受容」
人は誰しも、自分を人として尊重してほしい、自分の考えや想いを分かってほしい、自分を存在として受け入れてほしい…という想いが根底にあります。
ですから、たとえ受講者が1on1に対して否定的な意見を言ったとしても、論破せずに考えや想いをしっかり受け止める。
それだけでも受講者は心情的に落ち着き、「それだったら講師の言い分も聞こうじゃないか」という気持ちになってくれるものです。
2,「自分にとってのメリット」
多くの人は、自分にとって「メリット」が感じられないと、行動は続きません。あるいは「やらされ感」ばかり募ります。
ですから、「1on1はメンバーのための時間」「メンバー育成は上司の責務」と正論を言ったところで、よっぽど慈愛に満ちた上司でない限り「1on1をやろう!」という気持ちにはなれません。
一方で、「1on1で必要なコミュニケーションスキルは、『商談』『子育て』『プレゼン』など様々な場面でめちゃくちゃ役立ちます。メンバーとの1on1を、みなさんの1on1スキル強化の場として活用してみてはいかがでしょうか」と伝えると、受講姿勢は変わってきます。
3.「身近な出来事に置き換える」
現場は常に「今」との勝負です。そんな中、「このままだと会社の将来はどうなるか?」と危機感を煽ったところで、実感は湧きません。(それは、「環境問題と人々の向き合い方」とも重なります。)
ですので、筆者はこんな質問を投げかけます。
「会議は必要だと思いますか?」
この問いに対しては、意見が真っ二つに分かれます。
ただ、意見が合致するのは、「単なる報告会のような会議だったら不要」「多くの人から意見が出て、合意形成が図れるような会議なら必要」といったものです。
実は、1on1も同じ理屈です。
やったところで、雑談ばかりになる、上司からの一方的な説教になる、業務進捗確認に終始する…となれば、わざわざ定期的に時間を割いてやる価値はありません。
一方で、対話を通じて相互理解につながったり、メンバーの自律自走につながるとなれば、これは時間を割いてでもやる価値はあります。
他にも気を付けるポイントはありますが、筆者が講師を務める際に、特に注意しているポイントです。
最後に、1on1についてお伝えしたいこと。
それは、今も昔も「(1対1の)対話を通じて、人は育つ」という点です。
1on1は、何も目新しいものではなく、今の時代失われつつある「対話」と「対話の技術」を取り戻すことでもあります。