
読者のみなさまは、営業という言葉にどんなイメージを持ちますか。
押し売り。ノルマ。飛び込み訪問…。
正直なところ、筆者はそのすべてが嫌でした。
大学時代、教材の訪問販売のアルバイトに申し込んだことがあります。
高収入につられて始めましたが、結果は1冊も売れませんでした。
見知らぬ人の家をピンポンしては断られ続け、「自分の存在が空っぽになっていく感覚」を今も覚えています。
一方、軽快なフットワークでどんどん売っていく”陽キャ”な仲間たちを見ては、
「自分には営業なんて絶対無理だ」と心底思っていました。
人見知りで、自信がなく、恋愛でもフラれるのが怖くて告白すらできない。
体育会系でもない。──そんな自分が営業に向いているわけがない、と。
それなのに、人生は不思議です。
「絶対に嫌だ」と思っていた営業職として社会人をスタートし、気がつけば25年。
サラリーマン時代は営業表彰の常連になっていました。
「性格が変わったの?」と聞かれますが、そんなことはありません。
今でも飛び込みは苦手ですし、グイグイ売り込むタイプでもありません。
では、なぜ成果が出たのか。
25年前の筆者は「どう売るか?」よりも、むしろ逆を考えていました。
──売り込まれるのが嫌いだからこそ、どうすればそんな自分でも相手に受け入れてもらえるのか?
その答えのひとつが「自分を知ってもらうこと」でした。
入社してすぐ始めた手書きの新聞「えいき通信」。
自分のしくじりた体験や、自身独自の視点を文章にしてみたり…。
「こんなこと今まで誰もやっていなかったよ。でも読んでいて栄木さんの人柄が伝わる」
あのお客様の言葉が、今の自分の原点です。
ノルマ商品を無理やり売り込むことは、今でもできません。
それでも、お客様の悩みに耳を澄まし、真剣に向き合えば、自然と選んでいただける。
その実感を何度も味わってきました。
最近、田坂広志さんの『営業力』を読み返し、その理由が腑に落ちました。
田坂さんは、営業を「商品を売る仕事」ではなく、人と組織を売り込む仕事だと説いています。
つまり営業の本質はテクニックではなく、「信頼される人間になること」だと。
商談の場は、単にモノを売る場所ではありません。
お客様はその営業担当者を通して「この会社の姿勢」「考え方」「人柄」を感じています。
だから大切なのは、
相手の声にならない不安や迷いを感じ取り、耳を傾けること。
お客様の立場で、何に困っているのかを一緒に考えることです。
営業に向き不向きがあると思っていた昔の自分に、今ならこう言います。
大事なのは”陽キャ”かどうかじゃない。
「お客様の立場で考え抜けるかどうか」──それだけだと。
そして、それは経験を積めば必ず鍛えられる力です。
IT優位の時代、「営業」のあり方そのものが問われています。
売り込むだけの営業は、もう必要とされません。
セールステクニックや商品知識だけを武器にしても、むしろ害になるでしょう。
これから価値を持つのは、
人の声を聴き、人の困りごとを一緒に解く営業。
昔の自分のように「営業なんて無理」と思っている人に伝えたい。
大切なのは話術でも陽キャでもない。
たった一人のお客様に向き合い、相手の世界を真剣に想像できるか──。
その積み重ねが、誰にでもできる最高の営業力になるのだと思います。