栄木の”ひとり言”

【第233号】「比べる癖が止まらない」 〜現代の心の病〜

何か買うとき、ついネットで「どこが一番安いか」調べる。
目的地に向かうときは「どのルートが最も早いか」比較する。
お店を選ぶときも「評価が一番高いのはどこか」気になる。
SNSを見れば、誰かの持ち物や人生と、自分を比べてしまう。

──思い当たる方、いませんか?

これは、筆者が名付けた「比べる症候群」。
現代人の多くが、無自覚にかかっている“心のクセ”です。

もちろん、比べること自体は悪ではありません。
問題なのは、“何でもかんでも比べる”ことが常態化している点です。

なぜ、私たちは比べてしまうのでしょうか?
その根底には、人間の生存本能があります。
比べることで得られるのは、以下のような感情です。

・安心感:他の人も同じ状況だった → 「私だけじゃない」
・得した感覚:安く買えた → 「ラッキー!」
・優越感:自分の方が上だと感じた → 「ちょっと気分がいい」

比べることで一時的に心が満たされます。
だから私たちは、無意識に比べたくなるのです。

そして、スマホとネットという“比べ放題マシン”がその欲求を後押ししています。
いつでも、誰とでも、何とでも、瞬時に比べられる。
この便利さが、逆に私たちを比べる依存状態に追い込んでいます。

しかし、この「比べる癖」には強烈な副作用があります。

・昨日安く買ったものが、翌日さらに安く売られていた → 損した気分
・SNSで友人のリア充投稿を見る → 嫉妬や劣等感
・他人の成功ばかりが目につく → 焦りと不安

しかも、これらネガティブな感情は、ポジティブな感情よりも長く心に残るという厄介さがあります。

そして、その不安を打ち消そうと、またスマホを手に取って“比較”に走る。
──そうやって、私たちは比べることでしか安心できない心になっていきます。

これは、精神的にも時間的にも、私たちの人生をむしばむ静かな病です。

実はこのコラムを書いている筆者の「症状」も、かなり重症でした。
ある日、ふと自分が旅先の天気とつくば(自宅)の天気を比べていることに気づきました。
「よし、こっちが晴れてる。ちょっと得した気分」
逆だと、「ああ…やっぱつくばのほうがよかったかな…」

──これ、よく考えると不毛ですよね。
でも、そんな小さな「比べ癖」が、生活のあらゆる場面に入り込んでいたことに、ようやく気づきました。

その日から、筆者はこう心がけています。

「見ざる?言わざる?聞かざる?」
「知らぬが仏」

そして、次のような行動に意識を向けています。

・回り道を楽しむ
・目の前の体験に没頭する
・失敗を味わい、学ぶ
・お金や時間への執着を手放す

すると、不思議なことに少しずつ心が満たされていく感覚が生まれました。
集中力が高まり、1つの物事に対する深さが増してきたのです。
そして、それが結果として生産性の向上にもつながっていきました。

最後に問いかけたいこと。
「あなたは、比べることで安心していませんか?」
「比べない時間を、どれだけ一日の中で過ごしていますか?」

“比べることを手放す”のは、ちょっとした怖さを伴います。
ですが、それ以上に、「本来の自分の感性」を取り戻すきっかけにもなります。

このコラムが、「比べない心」を少しだけ思い出すきっかけになれば嬉しいです。