栄木の”ひとり言”

【第226号】「上司ガチャ」「配属ガチャ」の正体

「配属ガチャ」「上司ガチャ」
この言葉を聞いて、みなさんはどう感じますか?

筆者は初めてこの言葉を目にしたとき、正直、こう思いました。
「働くって、そんなに甘いものじゃない」
「こんな感覚では、社会で通用しないんじゃないか」
── 直感的に、そう感じました。

ですが、それは筆者の思い込みだったことに気づかされる機会がありました。

ある企業で、いわゆる「Z世代」の若手社員たちとじっくり話す機会がありました。

「新入社員研修中での退職」
「退職代行サービス利用、過去最多」
「入社直後から転職サイトに登録」

そんなニュースを目にすることがありますが、これはほんの一部。
多くの若手は、「社会に貢献したい」「すぐに辞めるつもりはない」という健全な意欲を持っていると思います。

実際に話してみると、筆者よりも20歳以上年下の彼らは、臆することなく自分の考えをしっかり述べ、礼儀もわきまえています。
「自分が新入社員だった頃より、よっぽどしっかりしているな」と素直に感心しました。

ただ、ある共通点にも気づきました。
それは、「人間関係」、特に「上司との関係」が働くうえでのストレス要因になりやすいことです。

Z世代は、心優しく、繊細な感情を持ち、相手への気遣いを大切にする反面、
「威圧的・否定的なコミュニケーション」には敏感です。

実際に、明確なパワハラ的なコミュニケーションではないものの、言葉の端々に「決めつけ」「否定」「聞く耳を持たずすぐジャッジする」というコミュニケーションが続くと、自分が否定されたように感じてしまいます。

すると──
「何か言ったら、また否定されるのでは」
「相談しても、どうせ相手にされないのでは」
そんな心理が、「上司との壁」を生み出してしまいます。

一方、上司の立場から見ると、
「相談に来ない」
「質問してこない」
「ひとりで抱え込む」
── そんなZ世代に、受け身な印象を抱きがちです。

しかも、現場は時間との勝負。
待ったなしの状況下では、上司もつい“効率”を優先してしまい、そんな若手社員に構っていられません。若手社員はますます孤立していきます。

これが、「上司ガチャ」の正体です。

さらに、知らない土地、知らない人々、自分と異なる世代に囲まれ、
もともと「自ら積極的に関係を築く」ことに不慣れな彼らが、休日も一人で過ごすことになれば、孤立感は深まる一方です。
(ネット環境が整い、”一人でも完結できる”世界が広がっていることも、孤立感を助長しているかもしれません)

こうして心理的に耐えきれなくなり、かといって職場で相談できる人もいなく、
「異動希望」「退職」という選択につながっていきます。

これが、「配属ガチャ」の正体。
キーワードは「孤立感」です。

だからこそ、上司との1on1ミーティングに対しては、意外にも好意的な声が多く聞かれました。

「普段相談できないことも、1on1があるから相談できる」
「色々と話せる機会があるのはありがたい」

ただし──
ここでも「誰とやるか」が極めて重要です。

「上司ガチャ」に外れてしまった場合、
1on1は、かえって苦痛の時間になります。

威圧感 → 相談できない → 抱え込む(タイパ悪い) → 成長できない → 孤立感…
そんな悪循環に陥るリスクすらあります。

つまり、上司の存在は、これまで以上に若手社員の「働きがい」を大きく左右する環境要因になっているのです。

これからの上司には、
「人間力」と「懐の深さ」が、ますます求められるでしょう。
部下を動かそうとするのではなく、部下が自然に育つ“空気”をつくる。
そんなスタンスが、未来の組織を支えていくはずです。