栄木の”ひとり言”

【第220号】「キモキャラ芸人」が愛されるワケ

先週、母親と叔母を連れて、千葉県・九十九里に行ってきました。
久しぶりの親孝行ということで、海の幸を楽しもうと立ち寄った海鮮食堂。

店内に入ると、壁一面にずらりと並ぶ色紙の数々。
レジの横には、TV番組『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』のロケで、出川さんとマスターの2ショットが飾られていました。

「出川、ここに来たんだ。」

写真に写る出川さんの屈託のない笑顔を見て、なんだかほっこりしました。
最近の彼は、昔の“抱かれたくない男”ではなく、みんなに愛される“国民のリアクション王”になっています。

思えば、出川哲朗さんのほかに、江頭2:50さん、小島よしおさん、アンガールズ田中さん…。
かつて“キモキャラ”とされていた芸人たちが、今再び脚光を浴びています。

なぜ、今彼らが再評価されているのでしょうか。

昔は彼らを“いじる”ことで笑いが成立していました。
しかし、今は違います。
彼らの無邪気さ、一生懸命さ、不器用でも前向きに生きる姿が、多くの人の心を掴んでいるように感じます。
嘲笑的な「笑い」から、ほっこりする「笑い」に変化したように感じます。

不器用ながらも体を張る姿は、努力のハードルを下げ、時に観る人に勇気を与えてくれます。
「自分も頑張ろうかな」と思わせる力があると感じるのは筆者だけでしょうか。

意識高い系の「成功したいならこうしろ!」という説教とは違い、彼らは何かを押しつけることがありません。
ただひたすらバカをやり、視聴者に「好きに笑ってくれ」と言わんばかりのスタンスが心地よいです。

SNSでは、美男美女や富裕層が「努力すれば誰でもこうなれる!」と言わんばかりに華やかな生活を発信しています。
しかし、それは多くの人にとっては「マウント」に感じます。
一方で、キモキャラ芸人たちは、失敗しながらも前向きに生きています。
彼らの姿は、視聴者に「自分たちと同じ目線で生きている」と感じさせ、安心感を与えてくれます。

これらの要素が、今の時代のニーズと合っているのかもしれません。

一方で、反発を招きやすいのが「俺はすごい!」とアピールする意識高い系や、いわゆる「成功者」と言われる人たちです。
例えば、高級外車の前でポーズを決める起業家、毎日ジム通いしながら「努力が全て」と語るインフルエンサー、「成功したければ朝4時に起きろ」と説教するビジネス系YouTuber…。

彼らの言葉は、「お前らも努力すれば成功できる」というメッセージですが、それが現実と乖離していて「はいはい、すごいですね。」と感じる人も多いのではないでしょうか。
今の時代、「頑張らなきゃいけない」というプレッシャーに疲れている人が増えているのかもしれません。

もちろん、意識高い系の考え方がすべて悪いわけではありません。
実際、彼らの言葉に触れて人生が変わる人もいるでしょう。
しかし、今の時代の空気においては、「無理せず、ゆるく生きたい」「頑張れない日もある」 という価値観を持つ人が増えており、その流れとは相性が悪いのかもしれません。

では、この流れは続くのでしょうか。

かつてSNSがなかった時代、人々は何に癒されていたのでしょう。
昭和・平成初期には「サザエさん」「ちびまる子ちゃん」「笑点」といった、穏やかで等身大のキャラクターたちが愛されていました。

そして今、「キモキャラ芸人」たちが、その役割を担っているように思います。

10年後、もしかしたらまた時代の流れは変わるかもしれません。
ですが、今この瞬間、彼らが輝いているのは確かです。

九十九里の海鮮食堂で、出川さんの写真を見ながら、そんなことを考えました。
壁には他にも多くの芸能人の色紙が並んでいましたが、なぜか出川さんの写真だけが妙に馴染んで見えました。
まるでこの食堂の一部になっているような安心感です。

「出川さん、きっとここで『ヤバいよヤバいよ』って言いながら豪快に食べたんだろうな。」

そう想像すると、なんだか笑えてきました。

昔のキモキャラ芸人たちが、今の時代に求められている。
それは、人々が“気張らずに生きること”を求めている時代の証なのかもしれません。