栄木の”ひとり言”

【第256号】「時速100km」の世界で、「時速10km」の一日を取り戻す

昨日、前職の後輩が家族で遊びに来てくれました。
もう10年以上の付き合いのある大切な仲間で、
わざわざ兵庫からはるばる会いに来てくれました。

昼に合流して、気づけば10時間。
10年分の積み重ねや、近況報告、家族の話、笑い話まで、濃密な時間でした。

そして、ふと思いました。

「この10時間は、一生忘れないな」と。

■AIとの10万字の会話は覚えていない

筆者は仕事柄、AIと膨大な量の会話をします。
一日に何万字のやり取りをすることもあります。

でも、それだけ話しているのに、
そのほとんどが記憶に残っていません。

画面上では大量の言葉が流れているはずなのに、
次の瞬間には、もう思い出せません。

いわば、
「時速100km」で走りながら景色を見ている感じです。

たしかに“見て”はいる。
でも、“覚えて”はいない。

■脳には「100kmの脳」と「10kmの脳」がある

脳には大きく分けて2つの状態があります。

●時速100kmで走る脳

スマホ、SNS、メール、チャット、動画、ニュース、AIとの会話…
次から次へと情報が押し寄せ、高速で処理し続ける状態。

風景は大量に見ているのに、記憶は薄くなる。
視界も狭まり、
「あ、なんか見えた気がするけど…もう思い出せない」という世界。

いまの多くの人は、ほぼこの状態です。

●時速10kmで歩く脳

人と向き合う。
ゆっくり話す。
散歩する。
手を動かす。
一緒に時間を過ごす。

この“ゆっくりの脳”は、
風景を覚え、感情を受け取り、記憶に深く刻みます。

後輩と過ごした10時間が、まさにこれでした。

■「続かない」の正体は、速度だった

みなさまに問いかけたいのですが、

2024年のパリオリンピック、誰がどんな活躍をしたか覚えていますか?

たった1年前のことなのに、思い出せない人は多いはずです。

新しい情報が次々に流れ込み、
上書きされ続けているからです。

これは「記憶力が落ちた」のではありません。
ただただ、
脳が時速100kmで走っているだけです。

だから、研修で学んだことが続かない。
本で得た気づきが消える。
決めた習慣が3日で終わる。

すべて“速度の問題”です。

■では、なぜ「時速10kmの時間」が大切なのか?

最近、レコードが見直され、
手間ひまかかるキャンプが流行り、
アナログ体験が再評価されています。

これ、ただのブームではありません。

100kmで走る世界に疲れた現代人の、
本能的な揺り戻し です。

早くて便利で効率的。
それはそれで必要。

でも、
人生を豊かにするのは、時速10kmの体験のほうです。

昨日の後輩との10時間のように、
「誰かと、何かと向き合う濃い時間」だけが、
心の奥にずっと残ります。

■まとめ

「続かない」「覚えていられない」「すぐ上書きされる」
——それは怠けでも根性不足でもなく、
ただ脳が100kmで走り続けているだけです。

けれど、人生を彩るのは、
10kmで歩いた一日 です。

人と向き合う時間。
ゆっくり話す時間。
ふとした気づき。
深く刻まれる体験。

AIと交わした10万字は覚えていない。
でも、昨日の10時間は一生忘れない。

結局のところ、
人生を変えるのは“速さ”ではなく“濃さ”なのだと思います。

だから時々、スピードを落としてみる。
10kmの脳で味わった一日は、
あなたの人生の記憶を豊かにしてくれるはずです。