―― 360°アンケート結果から見えた事実
当社では、上司を対象に360°アンケートを実施しています。
上司本人の自己評価だけでは見えない「部下・同僚からの見え方」を可視化するためです。
そこで見えてきた、ある事実があります。
それは――
「厳しい上司は時代遅れ」でもなければ、
「優しい上司が正義」でもなかったということです。
■ 結果を検証してみた
まず、シンプルに検証してみました。
- 「人がいい」「優しい」というコメントが多い上司
- “悪癖”が少ない上司
(例:決めつけが少ない/感情的に当たらない/人を否定しない など)
このタイプは、全体的に評価が高めです。
ここまでは予想通りでした。
ただし、自由記述を丁寧に読んでいくと、同時にこんな声も多く見つかりました。
- 「いつも抱え込んでいるように見える」
- 「もっと周りを巻き込んでほしい」
- 「言うべきことは、きちんと言ってほしい」
- 「リーダーシップを発揮してほしい」
つまり、“人がいい上司”は安心感を生む一方で、背負い込みやすい。
その結果、組織としては「推進力」や「方向づけ」が弱くなることがあります。
――この構造が浮かび上がってきました。
■ 悪癖が多い上司は、やはり評価が低めだった
次に、“悪癖”が多くつく上司を見てみます。
このタイプは、総じて評価が低めです。
ただし、コメントの中身が興味深いです。
- 「知識が豊富」
- 「プレイヤーとして仕事はできる」
- 「判断が早い」
- 「言っていることは正しい」
能力は高い。仕事もできる。
なのに評価が伸びません。
では、なぜか。
360°の自由記述を読むと、
“できるがゆえの反応の速さ”が、逆に空気を損ねてしまっているケースが見えてきました。
実際、こんなコメントがあります。
- 「相談すると、話し始めた段階で『つまりこういうことだよね』と結論が返ってくる」
- 「課題を共有したかっただけなのに、すぐに『じゃあこうしよう』となる」
- 「最後まで聞いてもらえないと感じることがある」
- 「言っていることは正しいが、反論しづらい雰囲気がある」
これらに共通しているのは、
上司が“間違っている”わけではない、という点です。
むしろ正しい。むしろ早い。むしろ優秀です。
ただ――
正しさとスピードが先に出てしまい、部下の思考と感情が置き去りになる。
この状態になると、職場で何が起きるか。
相談が減る。
報告が遅れる。
余計な忖度が増える。
挑戦が止まる。
結果的に、組織の空気は少しずつ“守り”に入っていきます。
■ では、どのような上司が評価が高いのか?
ここまで見て、こう思う人も多いはずです。
「結局、優しい上司が一番いいんじゃないの?」
「厳しい上司は嫌われるんじゃないの?」
ところが、もう一段深掘りすると、意外な事実が出てきました。
評価が高い上司の中に、“厳しい上司”が一定数存在したのです。
ここが、今回の一番面白いポイントでした。
■ 高評価の“厳しい上司”は、何が違うのか?
では、その“厳しい上司”は何が違うのか。
結論から言えば、
厳しさの矛先が「人」ではなく「基準」に向いているという点です。
自由記述には、こんな声が並びます。
- 「言うべきことは言うが、こちらの話を一度受け止めてくれる」
- 「厳しいが、筋が通っていてブレないので納得感がある」
- 「指摘された後に、次どうするかまで一緒に考えてくれる」
- 「最後は責任を持ってくれるので安心できる」
厳しい。要求もする。基準も高い。
でも、空気は悪くならない。
むしろ、職場が引き締まり、前に進む。
この違いを作っているのは、テクニックというより
“反応の型”でした。
■ 高評価の“厳しさ”には型がある
360°のコメントを読み込んでいくと、
評価の高い厳しさは、ほぼ共通してこの流れになっていました。
評価が上がる「厳しさの4ステップ」
① 受け止める(感情)
「そう感じたんだね」「そこはしんどかったよね」
② 整理する(事実)
「何が起きていて、どこに困っている?」
③ 示す(基準)
「うちの基準はここ。ここは外せない」
④ 決める(次の一手+背負う)
「じゃあ次はこうしよう。責任は持つ」
厳しいことを言っているのに、空気が荒れません。
むしろ前に進む。
この順番があるだけで、
“厳しさ”は「圧」ではなく「推進力」になります。
■ 厳しさが嫌われるのではない。“相手を尊重しない反応”が嫌われる
今回の360°アンケート結果から見えてきたのは、
「厳しさ」そのものではなく、もっと手前の話でした。
評価が下がる厳しさは――
- 先回りして結論を言う
- すぐ解決に持っていく
- 話を最後まで聞く前に判断する
- 正しさで押し切る
- 指摘が「人」寄りに聞こえる
つまり、相手を尊重していない反応です。
逆に評価の高い厳しさは――
- 一度受け止める
- 事実を整理する
- 基準を示す
- 次の一手を一緒に考える
- 最後は背負う
つまり、反応が整っている。
この差が、職場の空気を決めていました。
■ 最後に:「厳しい上司」が必要な時代になっている
「心理的安全性が大事」と言われる時代だからこそ、
実は組織にはもう一つ必要なものがあります。
それは、基準と推進力です。
優しいだけでは、組織は前に進まない。
厳しいだけでは、組織は止まる。
360°アンケートが教えてくれたのは、
その間にいる、こういう上司の存在でした。
空気を壊さず、基準で引っ張る“厳しい上司”。
嫌われるのは「厳しさ」ではない。
尊重のない反応だった。
――これが、360°アンケート結果から見えた事実です。
