栄木の”ひとり言”

【第266号】騙すより、騙されるほうがいい

先日、ある方と話す機会がありました。
長年、JリーグでGMを務め、結果も出してきた方です。

勝負の世界で、修羅場もたくさん見てきた。
うまくいった時期だけでなく、不遇も味わってきた人。

その方が発した一言がとても印象的でした。

「騙す方より、騙される方がいい」


「親父がずっと言ってたんですけどね。これは間違いないなって、今になって思います」

一瞬、きれいごとにも聞こえました。
でも、その人の表情や話し方には、不思議と軽さがありません。

ああ、この人は、本当にそうやって生きてきたんだろうな、と。

出し抜こうとしない。
うまく立ち回ろうとしない。
自分にも他人にも正直。

だからこそ、言葉に重みがありました。

最近、ニュースでは詐欺事件をよく目にします。
誰かを騙して、大きなお金を得る。

詐欺とまではいかなくても、
ビジネスの世界は「グレーゾーン」で溢れています。

ちょっと盛る。
都合の悪いことは言わない。
ごまかす。

理屈だけ見れば、その方が効率的なのかもしれない。
短期的には、得をすることもあるでしょう。

でも、どこかで思うんです。

それって、本当に「得」なんだろうか、と。



正直に言えば、昔の自分も、
まったくの白だったかと言われると、自信がありません。

少し大きく言ったこともあるし、
都合の悪い説明を後回しにしたこともある。

「これくらい、いいか」と。

でも、そういう小さなズレって、
不思議と心のどこかに残ります。

あと味が悪い。

そして、その癖は、いざという場面で必ず出る。

土壇場で、人は“普段の自分”に戻るから。

だから結局、自滅する。

そんな気がしています。


一方で、普段から誠実に、正直に、親身に向き合っている人はどうか。

派手さはないけれど、
確実に「地力」がついていく。

この人なら大丈夫。
この人に任せたい。

そうやって、少しずつ信頼が積み上がる。

信頼は、実はスキルよりも強い資産だと思います。

どこに行っても声がかかる。
仕事が途切れない。
気づけば、くいっぱぐれない。

長期的に見れば、これがいちばん合理的な勝ち方なのかもしれません。


もちろん、無防備に何でも信じればいい、という話ではありません。
疑うことも、ときには必要です。

ただ、

「人を騙してでも得を取る」

この線だけは越えない。

そう決めている人は、どこか強い。

自分に対しても、他人に対しても、嘘がないからだと思います。

騙されることもあるかもしれない。
損をすることもあるかもしれない。

それでも、

自分は絶対に騙さない。

そう決めて生きるほうが、
自分自身に納得感があります。

遠回りに見えて、
たぶん、いちばん確実な道。

あの日の一言が、今も頭に残っています。

「騙す方より、騙される方がいい」

あれは勝ち方の話ではなく、
生き方の話だったのかもしれません。