栄木の”ひとり言”

【第161号】あるタクシードライバーからの学び

ある日、都内でタクシーに乗車したら、ドライバーが若い女性でした。

珍しく思い、話を聞いてみると「新卒」でタクシードライバーになったとのことです。
稀なケースに思ったので、そのきっかけも尋ねてみました。

すると、彼女はこう答えました。

「元々は、教員志望で大学も教育学部だったんです。
ただ、学校現場の実情を知っていくうちに、教員は止めた方がいいかな…と思いました。
保護者対応も大変みたいだし、残業代もあまり出ないし、プライベートな時間もそこまで持てないし。
そこまでして教員にはなりたくないと思いました。」

かといって、タクシードライバーに憧れたわけでもなく、

「タクシードライバーは、他の新卒の仕事に比べて給料が結構いいんですよ。
それに、休みもちゃんと取れますし。
だから、やりたいことが見つかるまでは、とりあえず続けようかな…と思っています。」

と割り切った様子でした。

そこで、筆者が「やりたいことって例えばどんなことですか?」と尋ねたところ、

ドライバーはしばらく考え込んで、

「それがなかなか見つからないんですよね~」

と述べました。

この一連のやりとりから、今の若者の価値観の一端を垣間見た気がします。

人生をかけてまで、時間を犠牲にしてまで仕事をしたくない。
かといって、今のままでいいとも思っていない。
仕事に対しては、不真面目ではないけど、かといって意欲的でもない。
仕事は“ブラック”でなければ、ある程度は割り切ってやる。
とはいえ、“ワンチャン”あれば、別の仕事に就いてみたい…といったものです。

“それなりに”仕事をこなしている印象でした。

時代・環境の変化を感じます。

私の親世代は、経済的に恵まれていない家庭が多く、
生活のために、有無も言わさず働きに出されました。
“丁稚奉公”なんてことすらもあった時代です。
どんなに辛いことがあっても、雇い主の言いなりになるしかありませんでした。
でないと、生活費を稼げないからです。

当時の時代を美化するつもりはありません。
ただ、忍耐力、粘り強さ、根性…みたいなものが育まれたのは事実だと思います。

現代は、昔に比べ雇用主の優位性は崩れ、働き手が優位になっている時代です。
嫌だったら辞めればいい、
自分がやりたい仕事に就きたい、
ワークライフバランスを充実させたい…
といったものです。

昔に比べ、仕事を選ぶ自由度が高まったことには、功罪もあります。

それは、日本にはこれだけの人口がいるにも関わらず、「人手不足」が叫ばれていることです。
「人手が欲しいのに、その職種に求められる基準に見合った能力・マインドを持った人がなかなか見つからない」といった状態です。
実際に、職業観が磨かれず、いつまで経っても自己中心的な発想を持ち続けているビジネスパーソンを見かけます。

一方で、自由度が高まった分、主体的に考え行動できる人たちは社会問題に対するアンテナも高く、仕事も人生も謳歌しているように見えます。

そんな時代だからこそ、冒頭のタクシードライバーには、

「本当にやりたいことは、見つかるものではなく、見つけるもの」

そう伝えたいです。