
- 読者のみなさまが、「超高層ビルのオーナーだったら」という場面を想定して、以下の文章をお読みください。
あるとき、エレベーターの数が足りないという問題に直面しました。
そのビルで働く人々の数に比べ、エレベーターの数が少なかったため、毎朝のラッシュアワー時に、なかなか来ないエレベーターに対して、人々の不満が溢れました。
オーナーであるあなたは、どのような解決策を考えますか?
1.高速エレベーターを取り替える
2.建物の外部にエレベーターを増設する
3.人々に勤務時間をずらしてもう
しかし、いずれもコストや手間のかかる実現性の低いアイディアです。
そこで、ある人物が次のような提案をしました。
「エレベーターの横に『鏡』を置いてみてはどうですか?」
試しに鏡を設置してみました。
すると、エレベーターを待たされる人々は、鏡を使って、身だしなみを整えたり、自分の外見を見つめたりすることに時間を使えるため、エレベーターを待つ時間があまり苦にならなくなり、不満はかなり解消されたとのことです。
これは、実際、アメリカであった話です。
私たちは、問題解決の鍵を、「最先端の技術」を使ったり、「革新的な制度」を導入することに求める傾向にありますが、
その本当の鍵は、しばしば「人間心理の機微」を理解することにあります。
(参考書籍:「教養を磨く」田坂広志著)
今回の例でいえば、「待たされることが嫌」という前提に立つと、
「効率化」「待たせない」という解決策、つまり「エレベーターの高速化や数を増やす」という結論に達します。
一方で、「待たされることによって、やりたいことができなくなってしまう、だから嫌」という人間心理の機微の部分まで踏み込めば、真の問題解決にたどり着きます。
私たちは、幼少期の「問題」を出されたときに、「それを解決するには?」ということを教えられてきました。
ただし、実社会に出てからは「問題」を出されたときに、「それは本当の問題か?」と一歩引いた目で問題を捉えて、「本当の問題は何か?」というところまで踏み込んで考えることも必要になってきます。
それが時には、「人間心理の機微」にかかってくることだったりします。
他にも例を挙げましょう。
たとえば、あなたが「5分遅刻した」ことについて、相手が怒ったとしましょう。
もしかしたら、「なんでたった5分くらいの遅刻で、こんなに怒られなければいけないの?」と思うかもしれません。
そのとき相手は、「時間に遅れたこと」に対して怒っているのではなありません。
「待たされたことによって、自分の時間がないがしろにされた」ことに対して怒っていたりします。
つまり、これは人間の根源的な欲求でもある「自尊心」に関わったりします。
特に、相手が「時間=命」と捉えたり、「他人の時間を尊重する人」だったらなおさらそう思うでしょう。
ただ、あなたが普段から時間を守る人で、「申し訳ありません、5分遅れます」と一報入れたらどうでしょう。
相手の心情も変わってくるはずです。
これも「人間心理の機微」に関わるものです。
これはほんの一例にすぎませんが、
問題解決のカギは、起きている問題を「額面通り」に受け取らず、
一歩踏み込んで、人間心理の機微の部分まで捉えることにあったりする…と筆者は考えます。