栄木の”ひとり言”

【第146号】対話力

筆者、あるスポーツアスリートのパフォーマンス向上の支援を行っています。

アスリートは、パフォーマンス向上のために様々や専門家やコーチを活用しています。
筆者もその一人と言えます。

・筋力強化
・身のこなし
・専門的技術(スキル)の向上
・メンタルトレーニング(呼吸法など)
・フィットネス向上 など

これらはパフォーマンス向上には大事な要素です。
一方、筆者のパフォーマンス向上支援は、これらとは別角度のアプローチになります。

筆者の役割は、
アスリート自身が、自分の課題を自分自身で的確に捉えられる力(自己認識)
自分を見失わず、自分を律することができる力(自律)
この2つを高めることにあります。
(筋力トレーニングなどと比べると、効果が目に見えにくいのが難点です…。)

「一流のアスリートともなれば、そのようなことは当然できるんじゃないの?」

と言われそうですが、「競技能力」と「自分自身のバランスを取る力」はまた別物になります。

常に激しい競争に晒(さら)されればなおさらです。
また、注目されたり大金を手にすることで、驕りや慢心が知らず知らずに忍び込んできて、足元を掬われる…なんてこともあります。

では、どうやって「自己認識」「自律」を高めるのか?
その方法はいたってシンプルです。

「対話」です。

「対話」を通じて、アスリート自らが振り返り、課題に気づき、次の行動につなげていく後押しをしています。
また、「自分が抱いている自己像」と、「客観的に映る自己像」のすり合わせを行うことで、自己像(セルフイメージ)の調整を行います。
特にスランプに陥った時などは、アスリート自身、その原因が分からずに自己像が歪んでいる場合があるので、対話のアプローチは有効です。

ここで大事になってくるのが「対話力」です。

人間、自分を客観的に捉えることは不得手です。
幽体離脱でもしない限り、自分から離れて自分を見ることはできません。
ですから、「対話相手」がその身代わりになるわけです。

いわば対話相手は「鏡」のような存在です。

したがって、対話力で大事になるのは、何よりも「ニュートラルな姿勢」になります。
ですから、受け手が「偏見」「決めつけ」「先入観」のような姿勢でいると、対話はうまくいきません。

次に、対話力で大事なことは「相手を深く知る姿勢」です。
それが、傾聴・共感・観察力として現れます。

「この人、自分のことよく分かってくれるな」
「自分のこと分かろうとしてくれるな」

という話し手の感覚が、ホンネを引き出すことにつながります。

対話力で最も難しいのは、自分の考えを押し付けず、「相手に新たな視点を与える力」です。
ニュートラルな視点からの「問いかけ」「フィードバック」は、話し手に深い内省や気づきを促します。
受け手の力量(視点・視座・視野)が特に問われる部分でもあります。

新たな視点の獲得が、「新たな自己認識」「再認識」につながり、自律的な行動につながります。

ここまで、アスリートを例にお話ししました。
ですが、「自己認識」「自律」は、より良く生きていく上で誰にとっても大事なことです。

「対話」は、相手に自己認識を促し、相手の自律的な行動の後押しをします。
また「対話」は、相手のために行う利他的な行動であり、相手へのリスペクトの姿勢も育まれます。

「SNS」「メール」などで、コミュニケーションが簡略化され効率化されている世の中ではありますが、
だからこそ、「対話」の希少価値は高まっているように感じます。