栄木の”ひとり言”

【第236号】あるプロ野球選手との「5年間の1on1」の回想録

あるプロ野球選手との1on1コーチング支援も、気がつけば5年経ちました。
数えてみたら回数にして130回を超えていましたが、今でも「マンネリ感」はありません。

筆者が尊敬している方の紹介で始まった1on1コーチング。

「何を話したらいいんですか?」

最初の1on1で、彼がぽつりと漏らしたこのひと言を、いまでも覚えています。
1on1の時間は、毎回30分。ときには1時間を超えることもあります。

雑談に終始することもあれば、
結論が出ないまま、もやもやが残る日もありました。

ですが、5年間を振り返ってみると、彼は間違いなく変わっていました。
見られた変化は次の通りです。

もちろん、最初からそうだったわけではありません。
失敗、葛藤、怒り、虚無感。
いわゆる「どん底」を何度も経験しています。

ともすると、うまくいかない理由を監督やコーチなど外的な環境のせいにできたかもしれません。
ですが、そうなれば“ネガティブ感情”に覆われ、自分にフォーカスができなくなり、結局自身のパフォーマンスに悪影響を与えることになります。

そうなりかねない状況の中でも、彼は苦境に立たされる度に言葉を絞り出し、問いに向き合い、自分の中にある「解決への道筋」を少しずつ掘り出していきました。
そうやって、感情を言語化し、意味づけし、前に進む力へと変えていったように感じます。

彼に変化をもたらしたものは何か?

様々な理由が考えられますが、数ある答えの一つに「客観視の習慣」が身についたことは断言できます。

他人に話す。言語化する。問い直される。フィードバックされる。気づく。
この地道な繰り返しが、「自らを客観視し、自らを“行動の主体”にして考える力」を育てていきました。
それこそが、自律的に成長していける人材に必要な土台です。

一方で、まだまだ伸びしろもあります。

これらは、どれも“問い”を重ねていくことで磨かれていくと感じます。
1on1は、ただのコミュニケーションの場ではありません。
人材育成の最前線です。

人はつい、“指導”や“管理”に走りたくなります。
ですが、人が本当に変わるのは、「自分の言葉で気づいたとき」です。

1on1とは、上司やコーチが答えを与える場ではありません。
相手が「自分で考え、自分で動く人」になるよう支援する、
最も地道で、最も効果的な“育成の営み”です。

短期的な成果より、長期的な可能性を信じたい。
そう思えるすべての上司・指導者の方に、1on1を“本気で”取り組んでいただきたい――
そう願いながら、今日も筆者は組織への1on1(対話文化)の浸透に奔走しています。