“火が灯る” 研修レポ

新人が気づいた“誰かと働く”ことの大切さ

新入社員研修を担当していたときのことです。

4月1日、初日の自己紹介で「学生時代に起業していました」と語った新入社員がいました。堂々とした話しぶりに思わず驚いたのを覚えています。私の世代ではあまり見かけなかった経歴だったので、「時代は変わってきているんだな」と感じながら、彼の話を聞いていました。

研修期間中も、彼の姿勢は一貫していました。筋道立った発言、鋭い質問、落ち着いた立ち居振る舞い。同期の中でもひときわ目立っており、チームワーク演習では自然とリーダー役を担っていました。

研修終了後、現場に配属されてからも「とても優秀な新人が来た」と、嬉しい声が届いていました。ただ、数ヶ月ほど経った頃から、少し気になる変化が出てきました。

職場ですれ違ったとき、以前のような覇気がなく、表情もどこか疲れている様子。「大きなプロジェクトにアサインされたらしい」と聞いて、最初は「責任のある仕事を任されて疲れているのかな」と受け止めていました。

それでも心に引っかかるものがあり、あるとき彼に話を聞いてみました。彼は開口一番、「大きなプロジェクトを任されています」と、自信をにじませながら話してくれました。

確かに立場としては順調そのもの。ただ、話の内容と彼の表情がどこかちぐはぐで、胸に残る違和感がありました。

気になって、配属先の先輩社員にもヒアリングしてみたところ、「優秀なんですけど…なんだか、いまひとつなんですよね」という、評価の分かれる声が返ってきました。

そんな彼が、ある若手主体のプロジェクトでリーダーを任される機会がありました。準備は万全、資料もよく作り込まれていたそうですが、うまくチームが機能しなかった。

「相談された記憶がない」「全部、一人で進めていた」といった声もあり、結果として、メンバーとの連携が取れないまま進んでしまったようでした。

それをきっかけに、彼の姿勢は少しずつ変わっていきました。以前のように前に出るより、人の話に耳を傾ける場面が増え、「途中なんですが、ちょっと意見をもらえますか?」と相談するようになっていました。

彼にとっては、もどかしい遠回りだったかもしれません。でも、少しずつ周囲との距離が縮まり、「巻き込む力」が育っていったように感じます。

最終的に、彼の改善提案が社内で採用され、社内報にも取り上げられました。

そのとき、「一人でやってたら、ここまではいかなかったと思います」と話していたのが印象的でした。

人事が、特別なことをしたわけではありません。けれど、こうした一人ひとりの変化や成長の瞬間に立ち会えることが、この仕事のやりがいなのだと感じています。

組織は人の集まりです。だからこそ、「できるかどうか」だけではなく、「誰と働きたいか」という視点が大事になる。

そして、組織を動かしているのは、ロジックだけでなく、“空気”や“信頼”といった目に見えないもの。そうした土台があってこそ、実力が発揮されるのだと思います。

効率化やスピードが求められる時代だからこそ、あえて少し立ち止まって、人と向き合う時間を持つ。

それもまた、人事の大切な役割のひとつだと思っています。