ゴールデンウイーク、プロ野球観戦をしてきました。
そこで、球団関係者の方とお話しする機会がありました。
その中で、とても印象に残った話があります。
「最近は、コーチのあり方が大きく変わってきている」という話です。
以前のコーチのイメージは、自分の実践知をもとに選手を指導する人でした。
自分はこうやってきた。
だから、お前もこうやってみたらどうか。
この場面では、こう考えたほうがいい。
もちろん、そこには経験に裏打ちされた重みがあったと思います。
実際、その一言で救われた選手も、きっとたくさんいたはずです。
しかし、今のプロ野球は大きく変わっています。
データを見れば、ある程度の課題は見えてくる。
動画を見れば、フォームの違いも確認できる。
必要であれば、選手自身が専属のトレーナーを見つけ、個別にトレーニングを積むこともできる。
つまり、選手自身が多くの情報と選択肢を持つ時代になっています。
そうなると、コーチが何かアドバイスをしても、
「その考えは古い」
「今の時代には合っていない」
「自分には自分のやり方がある」
と受け取られてしまうこともあるそうです。
言葉を選ばずに言えば、
コーチの居場所がなくなってきている。
そんな話でした。
この話を聞いたとき、筆者はすぐに企業の現場を思い浮かべました。
これは、プロ野球だけの話ではない。
会社の中でも、かなり近いことが起きているのではないかと思いました。
以前の上司や先輩は、自分の経験をもとに部下を指導していました。
営業は足で稼げ。
若いうちは量をこなせ。
まずは言われたことをきちんとやれ。
自分もそうやって育ってきた。
その指導が、すべて間違っていたとは思いません。
その時代には、その時代の合理性がありました。
ただ、今の若い世代は情報を持っています。
ネットで調べられる。
動画で学べる。
AIにも相談できる。
転職市場も見える。
他社の働き方も知っている。
そうなると、上司の経験談だけでは、なかなか動きません。
むしろ、過去の成功体験をそのまま伝えるほど、
「それは、〇〇さんの頃の話ですよね」
と受け取られてしまうこともあります。
では、これからのコーチや上司に居場所はないのでしょうか。
筆者は、そうではないと思います。
居場所がなくなったというより、役割が変わったのだと思います。
これから必要なのは、
自分の答えを教える人ではなく、相手の中にある答えを引き出せる人。
そして、もう一つ大事なのは、
個人の力を、チームの方向性に接続できる人です。
今は、個人最適が強くなりやすい時代です。
自分の成長。
自分のやり方。
自分のキャリア。
自分の納得感。
どれも大切です。
ただ、それだけが強くなりすぎると、チームは少しずつバラバラになります。
プロ野球であれば、選手それぞれが自分の理論やトレーニング方針を持つ。
企業であれば、社員それぞれが自分のキャリア観や働き方を持つ。
それ自体は悪いことではありません。
でも、チームの方針と目線が合っていなければ、やがてズレが生まれます。
注意しづらい選手や社員が出てくる。
周囲は「あの人だけ特別扱いされている」と感じる。
真面目にやっている人の中に、不平不満が生まれる。
そして最後は、合わなければ辞める。
残っても腐る。
そんなスパイラルに陥ってしまうこともあるのだと思います。
だからこそ、これからのコーチや上司に必要なのは、
個人を押さえつけることではありません。
かといって、個人最適をそのまま放置することでもありません。
必要なのは、すり合わせです。
あなたの考えは尊重する。
あなたのやり方も大切にしたい。
そのうえで、それはチームの勝利にどうつながるのか。
組織の成果にどう貢献するのか。
周囲にどんな良い影響を与えるのか。
ここを一緒に考える。
これが、これからのコーチや上司の大事な役割なのだと思います。
教えるだけなら、データや動画やAIで代替される部分も増えていくでしょう。
でも、相手の現在地を見立てる。
本人の内側にある思いを引き出す。
そして、その力をチームの方向性に接続する。
ここには、やはり人が関わる意味があると思います。
プロ野球のコーチも、企業の上司も、これから問われるのは同じです。
自分の知識を披瀝し経験を語るだけの人か。
相手の可能性を引き出し、チームの力に変えられる人か。
個人が強くなる時代だからこそ、
個人をチームにつなげられる人の価値は、むしろ高まっていくと思います。
上司の居場所がなくなったのではない。
古い上司の居場所がなくなっただけ。
新しい上司の居場所は、
選手や部下の中にある可能性と、チームの未来をつなぐ場所にあるのだと思います。