栄木の”ひとり言”

【第279号】上司の居場所は、どこにあるのか?

ゴールデンウイーク、プロ野球観戦をしてきました。
そこで、球団関係者の方とお話しする機会がありました。

その中で、とても印象に残った話があります。

「最近は、コーチのあり方が大きく変わってきている」という話です。

以前のコーチのイメージは、自分の実践知をもとに選手を指導する人でした。

自分はこうやってきた。
だから、お前もこうやってみたらどうか。
この場面では、こう考えたほうがいい。

もちろん、そこには経験に裏打ちされた重みがあったと思います。
実際、その一言で救われた選手も、きっとたくさんいたはずです。

しかし、今のプロ野球は大きく変わっています。

データを見れば、ある程度の課題は見えてくる。
動画を見れば、フォームの違いも確認できる。
必要であれば、選手自身が専属のトレーナーを見つけ、個別にトレーニングを積むこともできる。

つまり、選手自身が多くの情報と選択肢を持つ時代になっています。

そうなると、コーチが何かアドバイスをしても、

「その考えは古い」
「今の時代には合っていない」
「自分には自分のやり方がある」

と受け取られてしまうこともあるそうです。

言葉を選ばずに言えば、
コーチの居場所がなくなってきている。

そんな話でした。

この話を聞いたとき、筆者はすぐに企業の現場を思い浮かべました。

これは、プロ野球だけの話ではない。
会社の中でも、かなり近いことが起きているのではないかと思いました。

以前の上司や先輩は、自分の経験をもとに部下を指導していました。

営業は足で稼げ。
若いうちは量をこなせ。
まずは言われたことをきちんとやれ。
自分もそうやって育ってきた。

その指導が、すべて間違っていたとは思いません。
その時代には、その時代の合理性がありました。

ただ、今の若い世代は情報を持っています。

ネットで調べられる。
動画で学べる。
AIにも相談できる。
転職市場も見える。
他社の働き方も知っている。

そうなると、上司の経験談だけでは、なかなか動きません。

むしろ、過去の成功体験をそのまま伝えるほど、

「それは、〇〇さんの頃の話ですよね」

と受け取られてしまうこともあります。

では、これからのコーチや上司に居場所はないのでしょうか。

筆者は、そうではないと思います。

居場所がなくなったというより、役割が変わったのだと思います。

これから必要なのは、
自分の答えを教える人ではなく、相手の中にある答えを引き出せる人。

そして、もう一つ大事なのは、
個人の力を、チームの方向性に接続できる人です。

今は、個人最適が強くなりやすい時代です。

自分の成長。
自分のやり方。
自分のキャリア。
自分の納得感。

どれも大切です。

ただ、それだけが強くなりすぎると、チームは少しずつバラバラになります。

プロ野球であれば、選手それぞれが自分の理論やトレーニング方針を持つ。
企業であれば、社員それぞれが自分のキャリア観や働き方を持つ。

それ自体は悪いことではありません。

でも、チームの方針と目線が合っていなければ、やがてズレが生まれます。

注意しづらい選手や社員が出てくる。
周囲は「あの人だけ特別扱いされている」と感じる。
真面目にやっている人の中に、不平不満が生まれる。

そして最後は、合わなければ辞める。
残っても腐る。

そんなスパイラルに陥ってしまうこともあるのだと思います。

だからこそ、これからのコーチや上司に必要なのは、
個人を押さえつけることではありません。

かといって、個人最適をそのまま放置することでもありません。

必要なのは、すり合わせです。

あなたの考えは尊重する。
あなたのやり方も大切にしたい。
そのうえで、それはチームの勝利にどうつながるのか。
組織の成果にどう貢献するのか。
周囲にどんな良い影響を与えるのか。

ここを一緒に考える。

これが、これからのコーチや上司の大事な役割なのだと思います。

教えるだけなら、データや動画やAIで代替される部分も増えていくでしょう。

でも、相手の現在地を見立てる。
本人の内側にある思いを引き出す。
そして、その力をチームの方向性に接続する。

ここには、やはり人が関わる意味があると思います。

プロ野球のコーチも、企業の上司も、これから問われるのは同じです。

自分の知識を披瀝し経験を語るだけの人か。
相手の可能性を引き出し、チームの力に変えられる人か。

個人が強くなる時代だからこそ、
個人をチームにつなげられる人の価値は、むしろ高まっていくと思います。

上司の居場所がなくなったのではない。
古い上司の居場所がなくなっただけ。

新しい上司の居場所は、
選手や部下の中にある可能性と、チームの未来をつなぐ場所にあるのだと思います。