筆者は、研修でよくこんなお題を投げかけます。
「今、『ありがたいな』と思うことを、1分間で10個挙げてください」
すると、ほぼすべての方が、途中で手が止まります。
「悩みなら、いくらでも出てくるんだけど……」
そう苦笑いする受講者が大半です。
それもそのはずです。
私たちの脳は、「すでにあるもの」「終わったこと」よりも、
「欠けているもの」「未完了のこと」に意識が向くようにできています。
まだ終わっていない仕事。
思うように出ていない結果。
人間関係の悩み。
周囲と比べて、自分に足りないと感じるもの。
終わっていない夏休みの宿題……。
人間は、危険や不足にいち早く気づくことで、生き延びてきました。
しかも現代は、これまでのコラムでもお伝えしている通り、「速い脳」が休む間もなく刺激されています。
気になる。
確認したい。
早く安心したい。
何とかしなければ。
こうして私たちの注意は、次から次へと「欠けているもの」「未完了のこと」に奪われていきます。
問題があること自体が、問題なのではありません。
問題は、欠けているものに注意を奪われ、今ある「集中力」まで使えなくなってしまうことです。
人間関係の悩みで頭がいっぱいになり、仕事が手につかない。
一つの失敗を引きずり、目の前のことに集中できない。
未完了のことが次々と浮かび、何から手をつければよいのか分からなくなる。
その結果、心がさまよい、本来持っている力を発揮できなくなります。
では、どうしたらよいのでしょうか。
そこで大切になるのが、
「あるもの」に心を向けること
です。
太陽がある。
水がある。
今日も動いてくれる身体がある。
必要としてくれる人がいる。
暑いけれど、エアコンがある。
食べ物を保存してくれる冷蔵庫がある。
改めて思いをはせてみると、ありがたいと思えるものは、今この瞬間にも無数にあります。
筆者のイメージでは、これは漫画に出てくる「元気玉」に近い感覚です。
太陽や緑などの自然から。
家族や仲間から。
お客様や、これまでの経験から。
今、自分の周りにあるものへ意識を向け、ありがたみを感じる。
すると、欠けているものに奪われ、あちらこちらに散らばっていた「元気」が、少しずつ自分のもとへ戻ってくるのを実感します。
そして、ここからが大切です。
集めた元気を、ただ眺めて終わるのではありません。
その元気を一つの力にして、「ないもの」や「未完了のこと」に対して、高い集中力で行動していくのです。
「焦りや不安から動く」のではなく、
「あるものを糧にして動く」
同じ行動でも、その出発点によって、心の状態は大きく変わります。
欠乏感から動けば、焦りや執着が生まれやすい。
感謝を土台に動けば、心に余白が生まれ、目の前の一歩に集中しやすくなる。
感謝とは、きれいごとでも、精神論でもありません。
感謝とは、自分の周りに散らばっている力を集め、現実に向かうための実践です。
だから筆者は、最も根源的で、最強のメンタルトレーニングとは、
あるものに心を向け、
そこから元気を集め、
その元気を、ないものへ向けた行動に変えること
だと考えています。
今、あなたの周りには、どんな「あるもの」があるでしょうか。
まずは10個、思い浮かべてみてください。
呼吸ができる。
毎日、用を足せる。
毎日、ごはんを食べられる。
一見、当たり前に思えることでも構いません。
そして、そこに心を向けたら、「ありがとう」の一言を添えてみてください。
次の一歩を踏み出すための元気は、すでにあなたの周りにあるのかもしれません。