栄木の”ひとり言”

【第290号】最強のメントレ

筆者は、研修でよくこんなお題を投げかけます。

「今、『ありがたいな』と思うことを、1分間で10個挙げてください」

すると、ほぼすべての方が、途中で手が止まります。

「悩みなら、いくらでも出てくるんだけど……」

そう苦笑いする受講者が大半です。

それもそのはずです。

私たちの脳は、「すでにあるもの」「終わったこと」よりも、
「欠けているもの」「未完了のこと」に意識が向くようにできています。

まだ終わっていない仕事。
思うように出ていない結果。
人間関係の悩み。
周囲と比べて、自分に足りないと感じるもの。
終わっていない夏休みの宿題……。

人間は、危険や不足にいち早く気づくことで、生き延びてきました。

しかも現代は、これまでのコラムでもお伝えしている通り、「速い脳」が休む間もなく刺激されています。

気になる。
確認したい。
早く安心したい。
何とかしなければ。

こうして私たちの注意は、次から次へと「欠けているもの」「未完了のこと」に奪われていきます。

問題があること自体が、問題なのではありません。

問題は、欠けているものに注意を奪われ、今ある「集中力」まで使えなくなってしまうことです。

人間関係の悩みで頭がいっぱいになり、仕事が手につかない。
一つの失敗を引きずり、目の前のことに集中できない。
未完了のことが次々と浮かび、何から手をつければよいのか分からなくなる。

その結果、心がさまよい、本来持っている力を発揮できなくなります。

では、どうしたらよいのでしょうか。

そこで大切になるのが、

「あるもの」に心を向けること

です。

太陽がある。
水がある。
今日も動いてくれる身体がある。
必要としてくれる人がいる。
暑いけれど、エアコンがある。
食べ物を保存してくれる冷蔵庫がある。

改めて思いをはせてみると、ありがたいと思えるものは、今この瞬間にも無数にあります。

筆者のイメージでは、これは漫画に出てくる「元気玉」に近い感覚です。

太陽や緑などの自然から。
家族や仲間から。
お客様や、これまでの経験から。

今、自分の周りにあるものへ意識を向け、ありがたみを感じる。

すると、欠けているものに奪われ、あちらこちらに散らばっていた「元気」が、少しずつ自分のもとへ戻ってくるのを実感します。

そして、ここからが大切です。

集めた元気を、ただ眺めて終わるのではありません。

その元気を一つの力にして、「ないもの」や「未完了のこと」に対して、高い集中力で行動していくのです。

「焦りや不安から動く」のではなく、
「あるものを糧にして動く」

同じ行動でも、その出発点によって、心の状態は大きく変わります。

欠乏感から動けば、焦りや執着が生まれやすい。
感謝を土台に動けば、心に余白が生まれ、目の前の一歩に集中しやすくなる。

感謝とは、きれいごとでも、精神論でもありません。

感謝とは、自分の周りに散らばっている力を集め、現実に向かうための実践です。

だから筆者は、最も根源的で、最強のメンタルトレーニングとは、

あるものに心を向け、
そこから元気を集め、
その元気を、ないものへ向けた行動に変えること

だと考えています。

今、あなたの周りには、どんな「あるもの」があるでしょうか。

まずは10個、思い浮かべてみてください。

呼吸ができる。
毎日、用を足せる。
毎日、ごはんを食べられる。

一見、当たり前に思えることでも構いません。

そして、そこに心を向けたら、「ありがとう」の一言を添えてみてください。

次の一歩を踏み出すための元気は、すでにあなたの周りにあるのかもしれません。