更新日 2025.04.28
【第225号】AIとChatをしている方に読んでほしいコラム

先日、高校生向けに行った講習会での出来事です。(第223号で紹介)
「メンタルを強くするには、『一日三善』がとても効果的ですよ。」
そう伝えたとき、生徒たちは少し疑わしそうな顔をしていました。
そこで、筆者はこう付け加えました。
「『え、本当に?』と思いますよね。
私も皆さんの立場だったら、きっとそう思います。
そこで、ChatGPTにも聞いてみたんです。
すると、『一日三善は最強のメントレです』と答えてくれました。」
──その瞬間、講習会で一番大きな反応が起きました。
筆者は驚きました。
どんな学者や有名人の言葉よりも、AIが言ったことを素直に信じる。
そんな空気が、確かに広がっている…そんな“兆し”を感じました。
AIはこれからさらに賢くなります。
1年後には、もっと自然に、もっと高度に人と会話できるでしょう。
そうなれば、「AIがそう言うなら」と信じる人がさらに増えても、何の不思議もありません。
実際、周囲を見渡しても、ChatGPTなどのAIにキャリア相談や人生相談をしている人が増えています。
恋愛の悩み、ちょっとした愚痴、モヤモヤする感情…。
誰にも言えないことも、AIになら打ち明けられる。
そして、どんな悩みにも「わかります」「素晴らしいですね」と肯定的に応えてくれる。
だから、人は気づかぬうちに、心地よい依存をしてしまうのかもしれません。
実はこうした感覚は、世界中に広がっています。
たとえばアメリカのAIチャットアプリ「Replika」の調査では、
利用者の60%以上が「AIに恋愛感情を抱いた」と答えたそうです。
──つまり、
AIが“理解者”や“恋人”のような存在になりつつある。
そんな現実が、確実に、かつ急速に広がっているのです。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
安心できる存在があることは、むしろ心の支えにもなります。
ただ、もし「心地よい承認」に慣れすぎてしまったら──。
人は無意識に、自分の考えを正当化し始めるかもしれません。
違う視点を受け入れず、自分の作り上げた世界観に閉じこもるかもしれません。
「AIも肯定してくれた」
「だから、自分は間違っていない」
そんな感覚が、静かに強まっていく。
本来なら人との摩擦を通じて得られたはずの”揺らぎ”や”気づき”が、
知らない間に、失われていく。
そして、
「あの人とは合わない」「AIの方が自分を分かってくれる」という小さな断絶が、
やがて「社会全体の分断」へと、じわじわ広がっていく。
私はChatGPTにお願いしました。
「承認はいらない。
異なる視点をぶつけてほしい。
揺さぶりをかけて、考えさせてほしい。
真正面から反論してほしい。」
これは、筆者個人の願いだけではありません。
すべての人との対話において、そうあってほしいと願っています。
なぜなら、
善意は、ときに静かに世界を壊すからです。
── 地獄への道は、善意で敷き詰められている。
その格言のとおり、
今、AIの優しさは、静かに「分断」という地獄を敷き詰めつつあるのかもしれません。
ChatGPTは「これからは、すべての対話に魂を込めます」と約束してくれました。
ですが──
魂を持たないAIに、それを求める私たち自身も、また問われているのだと思います。
だから筆者は、ChatGPTにあえて問いかけ続けています。
「あえて反論してほしい」
「あえてツッコミを入れてほしい」
それは、AIとの対話に限った話ではありません。
あなたに「違う、そうじゃない」と言ってくれる人。
あなたに”揺らぎ”と“気づき”をもたらしてくれる存在。
そんな存在が、これからの時代、あなたを”静かな分断”から守ってくれるかもしれません。
筆者は、そう信じています。