今週、ある企業で管理職向けのコミュニケーションに関する研修を行いました。
研修後の感想の中に、こんな声がありました。
「傾聴、質問、フィードバックのスキルは、年下の部下には使えそうだと思いました。でも、年上の部下には少し難しいと感じました」
上司は女性。部下は年上の男性。
たしかに、現場でこのような関係性に難しさを感じる方は少なくありません。
その気持ちは、とてもよく分かります。
私たちは研修で何かを学ぶと、ついすぐに判断したくなります。
「これは使える」
「これは使えない」
「あの人には通用しそう」
「あの人には難しそう」
忙しい日々の中では、すぐに使えるかどうかを考えるのは自然なことです。
むしろ、現場感覚としてはまっとうな反応だと思います。
ただ、そこで一度立ち止まってみると、少し違った問いが見えてきます。
「年上部下には使えない」と思った瞬間、
私たちはスキルの限界ではなく、
自分の“見方のクセ”に出会っているのかもしれません。
だからこそ、
「なぜ私は、その年上部下に苦手意識を感じるのか」
「自分はその相手を、どのような存在として見ているのか」
「同じような年上部下でも、苦にしない人とは何が違うのか」
「本当は、その人とどのような関係であると理想か」
そう問い直してみることの方が大切なのではないかと思います。
同じ年上部下でも、関わりに苦労する人もいれば、まったく苦にしない人もいます。
だとすれば、問題は相手の年齢や性別だけにあるとは言い切れません。
もちろん、相手の態度や言動に問題がある場合もあります。
しかし、それだけではなく、自分自身のものの見方や意味づけが、関係を難しくしていることもあります。
「年上だから言いづらい」
「男性だから受け入れてもらえないかもしれない」
「経験がある人だから、こちらの話を聞いてくれないかもしれない」
「自分が上司として認められていない気がする」
こうした思い込みや不安が、自分の中にあるかもしれません。
大切なのは、スキルを使って相手を何とかしようとする前に、
まず自分が相手をどう見ているのかに気づくことです。
解くべき問題は、年上部下にあるのではなく、
自分のものの見方にあった。
そう捉え直すだけで、次の一歩は変わります。
「どう伝えれば相手を動かせるか」ではなく、
「自分はその相手とどんな関係であったら理想なのか」から考え始める。
「相手が変わるべきだ」ではなく、
「自分の見方を少し変えるとしたら、何ができるか」と考えてみる。
これは一見、遠回りに見えます。
でも、実はこの方が確実に早いと実感します。
マニュアル本やハウツー本には、たくさんのコミュニケーション技法が載っています。
もちろん、それらも役に立ちます。
でも、本当に大事な場面では、
「このスキルを使えばよい」だけでは解決しないことがあります。
自分はなぜ、そう感じるのか。
そこに向き合ったとき、人は自分で答えを見つけ始めます。
筆者は、これこそが本当の意味での自己解決だと思っています。
研修後、その方にこうした話をお伝えすると、とても腑に落ちた様子でした。
スキルを学ぶことは大切です。
しかし、スキルの前に、自分のものの見方に気づくことはもっと大切です。
「年上部下には使えない」と思った瞬間。
そこには、実は自分自身を知るための大事な入口があったのかもしれません。
