女性初の事業部長になったとき、私はジャケットを新調しました。
しかも、そのジャケットを会社のロッカーに置いておくようになりました。
事業部長という立場になると、何かあれば急にお客様のところへ出向き、頭を下げなければならないこともあります。そのための準備、という現実的な理由もありました。
でも今思えば、それだけではなかった気がします。
「ちゃんとして見せたい」
そんな気持ちが、とても強かったのです。
事業部長たるもの、威厳があって、賢くて、きちんとしていて。しかも女性なのだから、どこかエレガントでもありたい。
そんな「理想の事業部長像」に近づくためのアイテムが、私にとってはジャケットだったのかもしれません。
仕事でも同じでした。
部下と一緒にお客様のところへ行けば、部下より立派なことを言わなければならない。
部門のことは、すべて把握していなければならない。
正しい判断と指示ができなければならない。
特に、経験のなかった営業の仕事にはコンプレックスがありました。
営業に詳しい部下から、
「ここはうまいことやっておきますから、任せてください」
と言われても、素直に「お願い」と言えない。
事業部長なのに分からないなんて情けない。
「あいつ、どうせ分かってないぞ」「お手並み拝見」と思われているのではないか。
今振り返れば、私は「女性初」という言葉にも、ずいぶん囚われていたのだと思います。
女性で初めてこのポジションに就いたのだから、失敗してはいけない。
「やっぱり女性には無理だった」と思われたくない。
いつの間にか、自分自身に「オールマイティであること」を課していました。
そんなある日、ふと周りの男性部長たちを見渡してみました。
まあ、なんと個性的であることよ!
細かいことは苦手だけれど、ここぞという時にものすごい力を発揮する人。
人のマネジメントは不器用だけれど、事業を見る目は抜群の人。
得意なことは自分でやるけれど、それ以外は周囲に頼る人……。
人数が多ければ、当然いろいろな人がいます。
得意なことも、苦手なことも、それぞれ違う。
ところが女性は、私一人。
たった一人しかいないと、いつの間にか「女性の代表」のような気持ちになってしまう。
そして、「女性初なのだから、何でもちゃんとできなければ」と、自分自身に無意識のプレッシャーをかけていたのです。
「あれ? そうそうオールマイティな人なんて、いないじゃん!」
みんな得意なことがあり、苦手なことがあり、それでもちゃんと「部長」をやっている。
なのに私は、「女性初」というだけで、なぜ一人で全部できる人になろうとしていたのだろう。
そう思ったら、少し肩の力が抜けました。
そして初めて、「足りないもの」ではなく、「自分の強みは何だろう?」と、自分自身を少し俯瞰して見られるようになりました。
私は、先頭に立ってぐいぐい引っ張るカリスマ型のリーダーではない。
人の力を活かし、支えながらチームを動かすタイプなのだ。
そう気づいたのです。
「部長だからって、完璧じゃなくていいんだ」
分からないことは聞けばいい。
相談してもいい。
頼ってもいい。
それよりも大切なのは、「人」をしっかり見ること。
この人には何を任せられるのか。
どこで力を発揮するのか。
誰と組めば、さらに力が活きるのか。
任せるべきことを任せるようになったら、気持ちがずーっと楽になりました。
そして、自分がどこを押さえておくべきなのかも、以前よりはっきり見えるようになりました。
「女性初」という言葉には、嬉しさと同時に、少し厄介なところもあります。
「初めてなのだから、ちゃんとしなくちゃ」
「後に続く女性のためにも、ちゃんとやらなくちゃ」
そんなふうに、知らず知らずのうちに余計な荷物を背負ってしまうことがあるからです。
でも、男性のリーダーたちがそれぞれ違うように、女性のリーダーだって、それぞれ違っていい。
自分なりのリーダーになればいい。
そう気づいた頃からでしょうか。
ロッカーに置いていたジャケットも、いつの間にか「鎧」ではなく、ただのジャケットになっていました。
