更新日 2025.06.22
【第233号】管理職、板挟み中。
先週実施した1on1研修で、ある管理職の方がこうつぶやきました。
「なんでこんなに部下に気を使わなきゃいけないんだろう」
「自分の若い頃なんて、怒鳴られて当たり前。いまの子たちは、少しでも厳しくすると“パワハラ”って言う」
「それでも“対話が大事”って……正直、納得できない」
「ていうか、こっちの悩みは誰が聞いてくれるんですかね?」
……痛いほど、わかります。
いま、管理職は“結果を出せ”と会社に言われながら、“気を配れ”と部下にも言われる…。
両側から引っ張られる、まさに“板挟み”です。
「管理職は罰ゲーム」とさえ言われる時代です。
とはいえ、逃げることもできません。
でも関われば関わるほど、うまくいかない…。
そんな苦しさが、現場には渦巻いています。
かつてのマネジメントは、まだシンプルでした。
「上が言ったことが正しい」「上が言ったことに従え」
制度と評価が人を動かし、上司は命じ、部下は従う。
ですが今は違います。
命じても動かない。
厳しくすると「ハラスメント」と呼ばれる。
そして関係性がこじれると、もう立て直せない…。
その結果、多くの管理職が、部下と“関わらない”という選択をし始めています。
ですが、そこで距離を取ってしまえば、マネジメントそのものが崩壊します。
現場には必ず、利害のズレや言葉のすれ違いがあります。
それを放置すれば、チームは分断されて、組織として機能しなくなります。
しかも今、部下たちはこう言います。
「上司よりChatGPTのほうが正確で早いし、ムカつかない」
…まあ、たしかにそうかもしれません(笑)。
ですが、それで本当にうまくいくでしょうか?
AIには、関係性を“感じる”ことはできません。
空気を読むことも、感情の揺らぎを察することもできません。
人間同士の摩擦や誤解を“どう橋渡しするか”。
そこにこそ、マネジメントの価値があります。
筆者が新人だった頃、上司にこう聞いたことがあります。
「先生(お客様)でも、嫉妬とかするんですか?」
「するに決まってるだろ」と笑って返されました。
その意味が、今なら痛いほど分かります。
子どもは「ズルい!」「悔しい!」と口に出します。
でも大人は、そんな感情を別の言葉にすり替えます。
「評価の基準がよく分からない」
「あの人は、上の人にうまく取り入ってるだけ」
…それは、だいたい“嫉妬”です。
しかも現代は、あらゆる情報に簡単に触れることができるので、何かと誰かと「比較」にすることが日常になっています。
だから、「口に出さないけど、思っている」…“嫉妬”のような負の感情が、以前にも増して渦巻いています。
そんな感情の動きを察知し、丁寧に扱う。
信頼関係を築きながら、必要な厳しさも伝えていく。
それが、いまのマネジメントに求められている力です。
対話と厳しさは、矛盾しません。
むしろ、対話があるからこそ、厳しさが届きます。
スキルや知識は、一定期間学べばある程度身につきます。
ですが、人の心を扱う力(いわゆる“人間力”)は、
一朝一夕で身につくものではなく、人生をかけて磨くものです。
マネジメント力とは、人間力に支えられた“営み”です。
だからこそ、AI時代においても、
人と人の間に立ち、橋をかけられる人は、
間違いなく、これからの組織の中で“必要とされ続ける人”になっていきます。
これが、先週お会いした管理職の方への、筆者なりの答えです。
…とはいえ、筆者自身も、感情の取り扱いがうまくいかないことが多々あり、日々もがいております(笑)。