更新日 2022.04.01
【第59号】「コナトゥス」とは?
先日、石原慎太郎さんが89歳で亡くなられました。
歯に衣着せぬ物言いで、敵も多かった方ですが、自分を貫く姿勢は誰しも認めるところだったと思います。
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強烈なエゴが人生を切り拓く。
周囲の人間からどんなに批判されても、
自分の信念を曲げずにやりたいことを貫く。
それこそがエゴである。
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石原氏の言葉です。
「エゴ」というと、「悪い意味」として捉えられがちですが、
「自分の心の声に従って、『我が/まま』に生きる」という意味では「ピュア」でもあります。
哲学者スピノザは、人間の本質を表すものとして「コナトゥス」という言葉を用いました。
「コナトゥス」は自分が自分であろうとする力、
自分を強く推進させる力(モメンタム)、
その目的のために自らを高め続ける力という意味があります。
言い換えれば、
「それがあるから、努力を続けられる」
「それがあるから、困難にも耐えられる」
「それがあるから、人生に生きがいを感じる」
といったものです。
有能・無能と何かと区別されることが多い世の中ですが、本来、人の能力は定まっていることはありません。
コナトゥスが活性化し、自分が自分らしく躍動する場所に身を置くと、その人はものすごく能力を発揮します。
例えば、ラグビー日本代表が2019年のワールドカップでベスト8に上り詰め、
日本を熱狂の渦に巻き込みましたが、あれはまさに選手一人ひとりの「コナトゥス」がなせる業だったと思います。
それまで日の目を見てこなかった日本のラグビー。
選手たちの思いは忸怩(じくじ)たるものがあったはずです。
そこにやってきた日本でのW杯開催、千載一遇のチャンスです。
「ベスト8に行くことで、日本のラグビーをもっと盛り上げたい!」
選手・スタッフの「共通のコナトゥス」は強烈なものだったと思います。
それがハードワークにも耐え、チームを一つにし、数々の奇跡を生んだのだと思います。
「意味の持つパワー」は計り知れなく、多くの日本人を熱狂の渦に巻き込みました。
このように「コナトゥス」は、自分の「原体験」がトリガー(引き金)となります。
その原体験が「渇望感」を生み、「自発的な行動」への強い動機となります。
そして、実はこの種の原体験を、誰しも例外なくしています。
ですが、多くの現代人がコナトゥスを発揮できずにいます。
それはなぜでしょう?
今の世の中に生きる人の不幸は、
1.世間の常識や考えから外れることを恐れ、
2.他人と比較して、自分の能力の限界を勝手に決めてしまい、
3.コナトゥスが発揮できないとしても、
大きく3つの理由に集約されます。
自分の「コナトゥス」を見出せなければ、意欲も湧いてきませんので、「やらされ感」で動くことになります。
すると、毎日がつまらなく感じるようになってしまいます。
メンタル不調やうつが多いことと、自分の「コナトゥス」が見いだせないことは、大いに関係しているように筆者は思います。
コナトゥスは、他人が見つけてくれるものではありません。
自分自身で見出すしかありません。
ただし、「自分はコナトゥスを見いだせてないな…」と思って嘆く必要はありません。
逆境・不遇を味わったからこそ、「世の中をもっとこうしたい!」とか、
自分はこういう経験をして、とても嬉しかったから「同じ体験を他の人にも味わってもらいたい!」とか、
家庭環境に恵まれなかったから、お金持ちになって高級車を乗り回したい!と思うのもコナトゥスです。
他人から見れば不純な動機であろうと、その人が味わった原体験は誰も干渉することはできません。
現状に対して自分が感じる「違和感」「渇望感」こそが、コナトゥスの出発点です。
違和感をスルーせず、掘り下げて考えてみることで自分の思いに気づくはずです。
ただ、自分の思いに気づいて渇望感を覚えても、行動に起こさなければ何も変わりません。
大事なのは、まず一歩踏み出す「勇気」です。
そういった点で、石原氏の言う「エゴ」とは、
世の中一般的に言われる「エゴ」(=自分さえ良ければいい・ワガママ)ではなく、
「コナトゥス」の意味合いに近しいと捉えます。
最後に、自分のコナトゥスに気づく質問です。
ぜひ、思いを巡らせてみてはいかがでしょう。
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今までの人生で一番嬉しかったことは?
今でも思い出すと怒りが込み上げてくるような経験は?
思い出すと今でも涙が込み上げてくるような辛かった想い出は?
心が躍るほど楽しかった経験は?
自分の心を突き動かすような、強烈な原体験は?
10億円積まれても手離したくないもの(こと)は何か?
今まで何に一番時間をかけてきたか?
憧れの人は誰か?(架空の人物も含む)
「反面教師」は誰か?
「こんな生き方だけはしたくない」人生とは?
自分が大切にする価値観は?
日常から「これっておかしくない?」とよく感じる出来事は?
ー それは、なぜか?
ー これらの原体験を通じて、心の底から実現したいことは何か?
ー それは、自分の「倫理観」「良識」にも則っているか?
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