更新日 2024.09.07
【第192号】人間関係構築の処方箋 ~自己の「防衛本能」に気づく~

「みんなで協力していこう」
「いじめや差別はいけない」
誰もが一度は耳にしたことのある言葉ですが、いざ実行するとなると、これが思った以上に難しいことを、歴史が教えています。
多様性が叫ばれる現代でも、まだまだ解決されていない問題が山積み。
どうやら、言うのは簡単でも、実践はそうはいかないようです。
今回は、組織開発や人材育成に関わる立場から、「人間関係を妨げるものは何か?」そして「どうすればそれを乗り越えられるのか?」についての気づきをシェアします。
まず、次のようなシーンを想像してみてください。
熱湯に手を入れたら「アチッ!」と反射的に手を引っ込める。
近づいてくる車を見て、猛ダッシュで避ける。
怪しい人を見かけたら、すっと道を変える。
これらの反応は、すべて私たちに備わっている「自己防衛本能」によるもの。
これは人間が危険から身を守るための体内セキュリティシステムのようなものです。
太古の昔、猛獣に襲われそうになったときなど、瞬時に「これは危険だ!」と判断することが生存の鍵でした。
でも、現代では猛獣に追いかけられることはほぼありません。(上司からのプレッシャーは猛獣級かもしれませんが…)
とはいえ、この自己防衛本能は現代でも元気に機能しています。ただし、少し違った形で…。
「自分の立場を守りたい」(自尊心)
「自分のお金を守りたい」(金銭)
「自分の時間を奪われたくない」(時間)
この3つを守るために、防衛本能がちょくちょく顔を出してくるのです。
たとえば、「あの人に批判されたから、無視しちゃおう」とか「お金をケチって人付き合いを避けちゃおう」など。
例を挙げればキリがないですが、現代社会において、この防衛本能は命を守るのではなく、人間関係を避けるために使われがちです。
そして面倒なのは、「自尊心、金銭、時間」を守ろうとすればするほど、心の中に「不安・不満」が膨らみ、自分自身を苦しめることになる点です。
さらに、この自己防衛本能に加え、我々が気づかないうちに働いている「無意識の偏見」(アンコンシャス・バイアス)も問題をこじらせます。
私たちは瞬時に「この人は敵か味方か?」と判断する傾向があります。
そして、その判断は、過去の経験やメディアからの影響で偏りがち。
結果として、必要以上に防衛的になり、他者との関係を遠ざけてしまうのです。
ここまで話した自己防衛本能や偏見を克服して、良好な人間関係を築くためにはどうすればいいのでしょうか?
その答えは、ズバリ「自分の反応に気づくこと」です。具体的なステップは次のとおりです。
STEP 1:
まず、自分が「防衛モード」に入った瞬間に気づくこと。
誰かを「敵」と見なしたら、その瞬間に「本当にこの人は私の敵か?」と問いかけましょう。
冷静になって、その感情の原因を考えてみることが重要です。
STEP 2:
自尊心、金銭、時間への執着が、自分を防衛的にしていることに気づくことも大切です。
これらを守りすぎると、むしろ人間関係を壊す原因になります。大事なのは、適度な手放しです。
STEP 3:
情報環境にも気をつけましょう。メディアやソーシャルメディアは、無意識に防衛本能を強化する要因になることが多いです。
情報を受け取るときは、「これが自分を防衛的にしていないか?」とチェックする習慣をつけると、無意識のバイアスに巻き込まれることが減ります。
ここまで「自己防衛本能の弊害」について話してきましたが、人間にはもう一つの素晴らしい本能があります。
それが「ミラーニューロン」です。このミラーニューロンのおかげで、他人の喜びを(ミラー=鏡のように)自分の喜びとして感じることができるのです。
この力が発揮されると、「誰かの役に立ちたい!」という気持ちが自然に湧き上がります。
このミラーニューロンを活性化させることで、他者と共感し合い、助け合うことができるようになります。
もし、この輪が広がれば、私たちの社会はもっと温かいものになるでしょう。
そして、逆説的ですが、他者と共感し、助け合うことで、最終的に自分の「生存本能」も満たされ、「防衛本能」も満たされるという循環が生まれてくると思います。